働き方改革とは?推進によって見えてきた企業側の課題と対策を解説

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働き方改革とは、「働きやすい環境」を作り、「生産性の向上」を目指して国が推進している取り組みです。しかし実施する過程で様々な課題が見えてきました。企業の担当者が働き方改革に取り組む上で気をつけるべきポイントとは何なのか。注意点や課題の解消方法を解説していきます。

目次
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知っておくべき働き方改革の基本情報

働き方改革とは働きやすい環境の整備や多様な労働形態の実現を目指して、政府が推進している取り組みのことです。ここでは働き方改革が生まれた背景やスタートの時期などの基本的な情報を解説します。

働き方改革が生まれた背景とは?

働き方改革が生まれた背景には、高齢化による日本の労働人口の減少があります。日本の総人口に占める65歳以上の割合を示す高齢化率が2020年には30%を超え、2065年には38.4%になるとの推計結果が出ているのです。

高齢化が進み、労働力の中心を担う15歳以上65歳未満の「生産年齢人口」が減少することによって、様々な業界で人手不足という問題が顕在化している状況があります。

働き方改革の構想が初めて打ち出されたのは2017年11月27日、当時の安倍内閣総理大臣による所信表明演説の中でした。「一億総活躍社会の実現」を目標に掲げ、実現のためのチャレンジとして働き方改革を位置づけたのです。

労働人口を確保していくためには、働きやすい環境を整えることが必要になります。また専業主婦の割合が減り、夫婦共働きが増加するという社会変化の中で、育児や介護と働くこととを両立させるためには、より柔軟な雇用形態が求められるでしょう。働き方改革は、日本の社会構造の変化に対応するために生まれた取り組みでもあるのです。

働き方改革がスタートしたのはいつ?

働き方改革が本格的に動き出したのは、2018年1月のこと。「働き方改革関連法」が可決・成立したことによるものでした。2019年4月1日には「働き方改革関連法」の一部が施行され、順次適応範囲が広がっているのです。これについては詳しく後述します。

多くの企業はこの法律が施行される前から働き方改革に対応すべく、社内において様々な改善策を実施しています。

働き方改革が目指す3つのポイントを解説

政府が主導する働き方改革の中でも、特に重要な柱とされている3つのポイントを説明します。

1.多様な働き方のための環境整備

働き方改革の大きな柱となっているのが、多様な働き方を可能にするための環境整備です。

近年、共働きの夫婦の割合が増えてきたことにより、多様な働き方へのニーズも増加しています。出産、育児、家族の介護などを理由とした退職を減らすためには、勤務場所や勤務時間にとらわれない柔軟な働き方を提供することが不可欠です。

リモートワーク・副業・兼業の推進、休職制度の活用の奨励など、多様な働き方のための環境整備の方法はいくつかあり、それぞれの企業の実情にあった取り組みが求められています。

2.公平な雇用待遇の確保

公平な雇用待遇を確保することは多様な雇用形態を奨励することにもつながっていくでしょう。正規の従業員と非正規の従業員の雇用待遇の格差をなくしていくことも、働き方改革の取り組みの大きな柱です。

正規と非正規の従業員の賃金を比較した場合に、非正規の賃金が低くなっているケースは珍しくありません。厚生労働省では「同じ労働をしながら、賃金が違うのは不公平なのではないか」という疑問に応える形で、「同一労働同一賃金」が法律で義務づけられました。

そのほか、非正規雇用労働者の正社員化を行った事業主に対して、キャリアアップ助成金を支給する国の制度も整備されています。

3.長時間労働の是正

働き方改革関連法が可決・成立して、時間外労働の上限時間が原則的に「月45時間、年360時間」と定められるなど、長時間労働の是正が進んでいます。「時間外労働」に対して法的な制限をかけたことで、残業時間を減らす企業側の取り組みが進んだのです。

この他にも、勤務の終業時間と翌日の始業時間との間に一定の休息時間を設けることが義務付けられた「勤務間インターバル制度」「有給休暇の消化義務」など、働き過ぎを抑制する対策が打ち出されています。

大企業と中小企業で異なる改革への対応

働き方改革関連法案は2019年4月以降、順次施行されていますが、企業の規模によって適応される時期や内容が違う部分があります。大企業と中小企業の相違点を確認していきましょう。

企業の規模で施行時期が違う

企業の規模にかかわらず、すべての企業で義務づけられている「働き方改革関連法案」の施策は次のようなものです。

  • 労働時間を客観的に把握すること
  • 年5日間の有給休暇を取得させること
  • 時間外労働の上限規制
  • 同一労働同一賃金

しかし、企業の規模に応じて、施行時期が違う施策もあります。例えば、「時間外労働の上限規制」が適応される時期は、大企業の場合は2019年4月1日から、中小企業が2020年4月1日からと義務づけられました。

これは大企業よりも中小企業のほうが、より長い準備期間が必要になる可能性が高いことを配慮したものです。

2022年3月の時点ではほとんどの施策が適応されていますが、一部例外もあります。「月80時間を超える残業での割増賃金率の引き上げ」についてはすでに大企業で適応されていますが、中小企業では2023年4月1日からです。中小企業の場合、経営基盤がしっかりしていないケースがあり、すぐに対応することが難しい可能性があることを配慮しています。

中小企業は助成金の活用も視野に

企業が行政のガイドラインや法律に従って、働き方改革を進めていくにはそれなりの労力や時間が必要になります。資金の余裕のない中小企業にとっては、難しい場合もあるでしょう。厚生労働省が働き方改革に取り組んでいる中小企業への支援を目的として支給される助成金は、「働き方改革推進支援助成金」と「業務改善助成金」の2つです。

「働き方改革推進支援助成金」は労働時間の短縮や年次有給休暇消化の促進のための環境整備に取り組んでいる中小企業事業主に対する助成金となります。働き方改革への取り組みを行った際にかかった費用の一部を助成するというものです。

「業務改善助成金」は中小企業・小規模事業者の生産性向上の支援と事業場内最低賃金の引上げを目的とした助成金のこと。生産性向上のために、機械設備や販売情報をネット上で記録・管理するPOSシステムを導入するなどして事業場内最低賃金の一定額以上の引き上げを達成した場合に、その設備投資にかかった費用の一部を助成します。

この他にも地方自治体で様々な補助金や助成金の制度があるので、利用可能かどうか調べると良いでしょう。

改革の推進で見えてきた企業の課題

働き方改革がもたらすものは、必ずしもプラスの要素だけではありません。急激な変化によって、逆にマイナスになってしまっていることもあり得るからです。ここでは企業が働き方改革のための取り組みを行っていくことによって見えてきた課題について説明します。

労働時間短縮による労働環境の悪化

企業が労働時間を短縮して残業時間に制限を設けたとしても、仕事の量が減っていなかったならば、家へ持ち帰ってサービス残業をする、中間管理職の負担が増えるなどの新たな問題が生じる可能性が出てきます。

見かけ上の残業時間を減らして従業員への残業代を減らしているにもかかわらず、仕事量は減らず、逆に従業員にプレッシャーがかかり、労働環境が悪化してしまう可能性もあるのです。

人件費やツール導入などコストの増加

働き方改革の取り組みは変化の度合いが大きいほど、コストの増加が予想されます。残業時間を減らすことによる業務内容の見直し、人員の配置換え、増員、外部委託、さらには就業規則の変更など、様々な対応が必要となるからです。

「同一労働同一賃金」を実行することによって、非正規雇用の従業員への人件費が増加するケースも考えられるでしょう。

また、労働時間を減らしながら生産性を高めるためには、ITツールやシステムを導入しなければならないケースも出てくるでしょう。働きやすい環境を作ることが結果的に、人件費やコストの増加につながることは十分あり得るのです。

生産性・売上の低下

時間外労働の上限が規制されることによって、労働時間が短くなり、なおかつ効果的な対策が講じられないと、生産性や品質が低下してしまう可能性があります。その結果、売上の低下に直結してしまうケースも出てくるでしょう。

改革実現のための課題の解決策について

働き方改革の取り組みを進めた結果、課題が浮き彫りになった場合には、どのような解決策があるのでしょうか。問題点の解消方法について、具体的に解説していきます。

テレワークや有給休暇の活用

従業員の労働状況を改善するうえで大きな効果が期待できるのは、テレワークと有給休暇の活用です。

テレワークのメリットは時間や場所の制限から自由になれること、通勤時間がなくなることなどがあげられます。テレワークは育児や介護と仕事の両立を実現する場合にも、有効な手段のひとつとなりえるでしょう。仕事の合間に育児や介護をする、あるいは育児や介護の合間に仕事をすることが可能になるからです。

また有給休暇を効果的に使うことによって、働く時間と生活する時間をセルフ・マネージメントし、仕事へのモチベーションを高めることにも期待ができます。テレワークや有給休暇を活用することは、働き方の多様化を促進することにもつながるのです。

ワークフローの見直しと効率化・IT化

残業時間を減らしながら、生産性を低下させないためには、労働生産性そのものを向上させる必要があります。ワークフローを見直して徹底的に無駄をなくしていくことと、効率化やIT化を進めていくことが不可欠になるでしょう。

働き方改革とは、これまでの業務のあり方を見つめ直していくことでもあるのです。

全社的な企業風土の変革

残業をたくさんすることを良しとする企業風土を、短期間で変えていくのは簡単なことではありません。また残業時間を抑制したにも関わらず、仕事量は減らず、従業員にプレッシャーがかかるなど、逆効果になる場合もでてきます。

働き方改革を効果的に推し進めていくためには、管理職も含めて、上から下まで全社的な企業風土の変革を推し進めることが必要になるでしょう。

働き方改革に対する企業の取り組み3事例

働き方改革に対する企業の取り組みとして、着実な成果をあげている3社の事例を紹介しましょう。

1.仕事と生活をトータルにシフトする富士通

富士通ではグローバル拠点を含むすべての従業員約13万人がテレワークを行っており、働き方改革の成果を着実にあげています。

成功のポイントは2つあります。1つは従業員それぞれのライフスタイルに合わせて勤務時間や場所を柔軟に選択できる制度を実施したことです。もう1つは、テレワークを安心して行えるセキュリティのしっかりしたクラウド型のネットワークとコミュニケーション・ツールを整備したこと。この2つを両立させることで、働きやすい環境作りに成功したのです。

2.女性活躍に重点を置くトヨタ紡績

女性の活躍に重点を置き、育児・介護休職制度を充実させているのがトヨタ紡績です。育児休暇は子どもが3歳になるまでの期間、休暇を取得可能。事務・技術部門では、子どもが8歳になるまで育児短時間勤務制度の利用が可能です。

働きながら育児のために必要な時間をしっかり確保できるように、現実に即した制度になっているところがポイントといっていいでしょう。この他にも配偶者の転勤などの理由で退職した人に対して、同じ職務で再雇用する制度もあります。

3.才能と情熱を解き放つヤフー

ヤフー株式会社は「“才能と情熱を解き放つ”ため」というキャッチフレーズを掲げて、働き方改革を推し進めている企業です。「週休3日制」、往復2時間以上の社員に新幹線通勤を認める「新幹線通勤」、机を自由に配置できる「全館フリーアドレス制」など、独創的な改革を推し進めてきています。

同社は「社員の幸せを追求すること」と「企業として収益をあげていくこと」の両立を目指しているところが大きな特徴といっていいでしょう。働き方改革を行う前に「人事評価制度」を見直すことによって、一人ひとりの貢献を正しく評価できるよう細やかなマネジメント変革を先に進めたところにも独自性が表れています。

多様な働き方を奨励し、個人としてではなくて、組織トータルとしての労働生産性の向上を目指しているところも特徴的です。

最後に

働き方改革が生まれた背景には、高齢化による労働人口の減少があります。働き方改革は働きやすい環境を整備し、労働力を確保すること、労働生産性を向上することを目的として推進されてきました。

「多様な働き方の整備」「公平な雇用待遇の確保」「長時間労働の是正」という3つの柱を軸として、近年、企業での取り組みも活発に行われています。しかし、これまで長きにわたって培われてきた企業風土を一朝一夕で変革するのは簡単なことではありません。

働き方改革関連法案の法律に対応することだけを考えるのではなくて、その趣旨を理解して、働きやすい環境を作ることと生産性の向上とを両立していくことが大切なのです。

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