上司も部下もなく、役職もない新しい組織のあり方として注目されているのがホラクラシー組織です。この記事ではその特徴やメリットとデメリット、導入する上での注意点など、導入した日本の企業の事例をまじえて解説します。
ホラクラシー組織とはどんなものなのか?
ホラクラシー組織とはどういうものを指すのか、定義と歴史、ピラミッド型組織やティール組織との違いを最初に説明しましょう。
ホラクラシーとは?組織の定義と歴史
ホラクラシー組織について解説する前に、「ホラクラシー」という言葉を説明します。「ホラクラシー」とは米国のホラクラシー・ワン社のブライアン・ロバートソンが2007年に開発して発表した新しい組織デザインの手法です。「ホラクラシー」は「ホロン」という単語から派生した言葉で、「ホロン」は「それ自体が全体であり、なおかつ同時に部分であるもの」という意味を持っています。
「ホロン」の具体的な例としてあげられるのは人体や器官や細胞です。確かに細胞には上下関係は一切ありません。この「ホロン」の特徴から着想を得た組織デザインの方法が「ホラクラシー」であり、実際に組織化されたものが「ホラクラシー組織」と呼ばれています。ホラクラシー組織は役職や上下関係が存在せず、仕事における決定や判断の裁量が個々にゆだねられているのが特徴です。
ピラミッド型組織との違いとは?
旧来の会社組織のほとんどは「ピラミッド型組織」と呼ばれるものです。ピラミッド型組織ではトップ(会社の場合は社長)を頂点として、その下に階級や役職がピラミッド型に広がっています。意志決定が上から下へと伝達され、組織として機能するのです。
一方、ホラクラシー組織では前述の通り役職や上下関係がなく、仕事の決定や判断の裁量がそれぞれにゆだねられています。つまり、仕事によって役割が分担され、それぞれの役割を果たすことで組織として機能しており、上からの命令で機能しているピラミッド型組織とは根本から異なるのです。
ティール組織との違いとは?
ホラクラシー組織と共通する要素を持った言葉として「ティール組織」があります。ティール組織という概念が生まれたのは2014年、フレデリック・ラルーの著書によってであり、ホラクラシー組織よりも新しい言葉です。ティール組織は目的に対して組織に所属する全メンバーがそれぞれに意志決定を行う自立的な組織と定義づけられています。
自主的で自立的な組織という点では、ホラクラシー組織とティール組織は似ているのですが、ホラクラシー組織が具体的な会社組織を表しているのに対して、ティール組織は理念を表しているという違いがあります。つまり両者は別の組織ではなくて、次元が違うものなのです。ティール組織の理念を具現化したものがホラクラシー組織ということになります。
ホラクラシー組織のメリットとデメリット
ホラクラシー組織は未来の会社組織として期待されていますが、メリットだけではなく、デメリットもあります。それぞれ説明していきましょう。
上下関係がないからこそ生まれるメリット
ホラクラシー組織では管理・監督の業務が発生しないため、社員全員がそれぞれの役割に集中でき、業務の効率化や生産性の向上に期待できます。
またこの仕組みを導入することで、社員の成長を促す効果があることも大きなメリットでしょう。上下関係のないフラットな組織であるため、人間関係のストレスが生じにくく、風通しのよい組織作りが可能になるメリットもあります。
新しい組織だからこそのデメリット
ホラクラシー組織は新しい仕組みであるがゆえに、導入後に会社に文化が定着するまで時間がかかります。また、社員が変化に順応するまである程度の期間が必要です。
また業務の効率化や生産性の公表などの効果が出るまでに時間を要することもデメリットといえるでしょう。
ホラクラシーを導入する上での注意点
ホラクラシー組織は一般的な会社とはまったく違った形態の組織なので、安易に導入すると組織として機能しなくなる可能性もあります。ここでは導入にあたっての注意点を解説しましょう。
導入に適した企業風土か確認が必要
すべての会社がホラクラシー組織を導入してうまくいくとは限りません。まずは自社の企業風土がホラクラシー組織の導入に適しているか確認しましょう。
なおホラクラシー組織の導入が向いているとされる条件は、自主的に意志決定できるタイプの社員が揃っていること、もしくはそうした社員の育ちやすい環境があることとされています。
ルールと指針を作ることが第一歩
ホラクラシー組織で意志決定を行うのはロール(役割)を中心として細分化されたグループです。組織全体を統轄する役割を持った存在はいないので、役割分担や責任の所在を明確にする、給与や評価の基準を定めるなど、ルールや指針を作っておく必要があります。
ホラクラシーを導入した日本企業の事例
ホラクラシー組織の仕組みは理解できても、実態をイメージしにくいという人もいるでしょう。実際に導入した日本企業の事例を紹介しましょう。
2008年に導入したUPDATA
UPDATAは2008年という早い段階からホラクラシー組織を導入した会社です。「データで人類をアップデートする」というミッションを掲げて、不動産業界のDX化に取り組んでおり、組織としてもアップデートし続けています。給料を話し合いで決定する、社長や役員は毎年選挙で決定するなど、さまざまな試みを行い、試行錯誤しながら組織作りをしているのです。
「ぜんいん社長合宿」を実施するカヤック
面白法人カヤックは「まずは自分たちが面白がろう」という方針を掲げているWeb制作・企画・運営会社です。役職がないわけではありませんが、「ぜんいん社長合宿」「ぜんいん人事部」など、ユニークな企画を立てて、社員の自主性と自立性を促していく組織作りをしています。ホラクラシー組織の仕組みの一部を取り入れた運営を行っているのです。
最後に
Iホラクラシー組織は上下関係も役職もない新しい会社のあり方です。上からの命令によって動くのではなく、個々のメンバーが自主的・自立的に判断して、それぞれの役割を果たしすことで会社が運営されます。しかしこれまでの組織とは大きく仕組みが異なるため、導入にはさまざまな注意が必要です。しかしホラクラシー組織の導入の是非は別として、ホラクラシー組織がニューノーマルの時代の新しい組織作りのヒントになることは間違いないでしょう。