科学的管理法とは、作業を客観的に整理して労働を管理する手法です。作業の効率を高め、現代の日本でも採用されている大量生産方式の基礎となりました。
本記事では、科学的管理法とはどのような内容なのか具体的に説明し、果たした功績や問題点についても紹介します。
科学的管理法とは?
科学的管理法とは、20世紀の初めにアメリカのエンジニアであるフレデリック・テイラー氏が提唱した労働管理の方法です。
作業についての客観的な基準
科学的管理法は、それまで労働者の主観的な経験や技能によって行われていた作業を、客観的・科学的に分析して整理した管理方法です。作業について客観的な基準を設け、管理者の下で計画的に遂行することにより作業の効率化を図ります。これにより労務におけるコストを削減するとともに、労働者の賃金アップを実現しました。
テイラーが提唱
テイラー氏が提唱した科学的管理法は「課業管理」「作業の標準化」「出来高制」「職能別組織」の4つからなります。同氏は経営コンサルタントとして複数の工場で科学的管理法を指導し、生産高や労働者の賃金をあげるといった成果を残しました。
1903年創業の自動車メーカー・フォード社はこの科学的管理法をいち早く取り入れて8時間労働制を採用し、自動車の大量生産方式を完成させています。その後、科学的管理法はアメリカの機械産業の基礎となり、その手法は現代の日本でも多くの企業で採用されることになったのです。
科学的管理法の内容
科学的管理法は労働管理について客観的な基準を作り、作業を効率化する方法です。その具体的な内容について、わかりやすく説明しましょう。
1日の仕事量を設定する
科学的管理法の中核となるのが「課業管理」です。まず、1日のノルマとなる仕事量の基準を、次のように決定します。
- 作業で使用する工具や手順などの条件の基準を、時間と動作の研究によって標準化する
- 標準化は優秀な作業員の仕事量に基づいて決定する
- 標準化により、熟練者・未熟練者を問わず同じ条件で働く基準を確立する
- 作業員全員がこれを習得し、ノルマを達成した場合は賃金を割増する
ノルマの達成により賃金が増え、未達成の場合は減収するシステムの導入により、労働意欲を高めることに成功しています。
作業をマニュアル化する
標準化された作業内容はマニュアルにします。作業員はマニュアルを見て仕事を覚えることができ、上達までの時間が飛躍的に短縮されるのがメリットです。熟練工の効率的な動きをもとに作成されたマニュアルを見ることで、未熟な作業員でも熟練工の動きを早く習得することができます。
作業管理のために最適な組織を作る
これまでリーダーの一人に権限が委ねられていた職務を、企画部門と管理部門を分けます。計画と実行の分離を図ることで、作業管理に最適な組織を作るのです。これにより、現代の職能別組織の原型が作られました。
科学的管理法が果たした2つの功績
科学的管理法は現代における大量生産方式の基礎を作り、作業の効率化を実現するという功績を残しています。2つの功績について見ていきましょう。
1.大量生産方式基礎を作る
科学的管理法の導入による大量生産方式は、日本の企業でも採用されています。
マクドナルドの例
マクドナルドでは、誰が担当しても同一の方法に従った作業を行うという科学的管理法の手法を採用しています。決定した標準作業量についてマニュアルを作成し、従業員の共有を徹底させたのです。常に商品の品質が一定に保つよう、厳しい品質管理が行われています。
トヨタの例
トヨタは大量生産方式を取り入れるにあたり、科学的管理法を基礎として独自の生産方式を確立しました。改善や見える化に取り組み、作り過ぎや手待ちなど7つの「ムダ」を排除するなど、「トヨタ生産方式」と呼ばれる品質管理によって生産効率を向上させています。
2.作業の効率化が図れる
テイラー氏により科学的管理法が提唱される前のアメリカでは、「1日の生産量を目分量で決める」「勘や経験を優先する」といった成り行きに任せた経営が行われていました。科学的管理法はこのような生産体制に対する反省から生み出され、作業を科学的に分析して作業を効率化することに成功したのです。
科学的管理法の問題点
作業の効率化を重視する科学的管理法は、人間性を軽視しているという批判を受けました。労働者をただ作業するだけの機械とみなしていると非難されたのです。
また、仕事の手順を標準化し、マニュアル通りに作業すれば賃金を支払うという仕組みは、労働者が環境の変化に適応するという視点が欠けているという問題も指摘されています。作業のなかでより効率的な方法に気付いた場合は作業の改良も取り入れるようにするなど、柔軟な視点を持ちながら運用することも必要になるでしょう。
最後に
科学的管理法は成り行き任せだった労働を科学的に分析し、計画的な管理で生産性を高める手法です。商品の品質を管理し、作業を効率化するために役立ちます。自社の作業効率が低いと感じている経営者の方は、取り入れてみるとよいでしょう。