起こり得るリスクに対して何らかの対処策を取ることを「リスクヘッジ」と呼びます。投資の世界でよく用いられる言葉ですが、ビジネスや生活でもリスクを想定して対処策を練ることは大切です。どのようなリスクヘッジがあるのか、また、危険を想定した行動を取るためのコツについて解説します。
リスクヘッジとは何か?
起こり得る望ましくない事態を想定して、あらかじめ何らかの対策を取ることをリスクヘッジといいます。
例えば株式相場が上昇するときに利益が出るブル型の投資信託ファンドだけを保有していると、株式相場が下落したときには損失を被りかねません。相場が下落したときに利益が出るベア型のファンドも保有し、相場がどちらに進んでも損失を出にくくすることなどがリスクヘッジです。
リスクマネジメントとの違い
リスクマネジメントも、危険性を想定して対策を取るという点に対してはリスクヘッジと同じです。しかし、リスクマネジメントは「これから起こり得るリスク」に備えるだけでなく、「すでに起こったリスク」についても被害や損失が最小限になるように対応することも含みます。
リスクテイキングとの違い
想定したリスクをあえて取るように行動することを「リスクテイキング」といいます。
ただし、リスクテイキングは、リスクを取ることで何らかのメリットがある場合に限られた行動です。例えば、リスクを取ることで大きな利益が得られるとき、あるいは利益獲得の可能性が高まるときに、リスクテイキングを選ぶことがあります。また、リスクを取るという経験が将来的にプラスになると考えられるときも、あえてリスクの高い選択肢を取ることがあるでしょう。
リスクヘッジをシーン別に紹介
将来的な危険を予測し、リスクを回避する対処策を講じるリスクヘッジは、様々なシーンで活用されます。投資やビジネス、日常生活におけるリスクヘッジの例について見ていきましょう。
金融取引におけるリスクヘッジ
株式や投資信託などの金融商品を取引する際には、様々なリスクを想定したリスクヘッジが必要です。
例えば「A社の株式は絶対に上昇するはずだ」と、A社の株式だけを大量に購入するのでは大損をしかねません。A社が不祥事を起こして株価が大暴落する可能性や、A社の関連業界全てが不況に陥る可能性があるからです。複数社の株式を購入し、特定の株価が予想外の動きを示しても、他の株式によって利益を得られるようにしておくことができるでしょう。
為替取引におけるリスクヘッジ
株式相場と同様、為替相場も変動するため、リスクヘッジが必要です。例えば海外の会社と取引を行い、1か月後に10,000米ドルを支払わなくてはいけないとしましょう。為替が円安方向に動いているため、1か月後には現在よりは不利なレートになりそうだと予測されるならば、1か月後も現在のレートで取引できる「為替予約」を利用することができます。
為替予約をすることで、どんなに円安方向に為替レートが進んでも、為替変動による損失を被らずに済むでしょう。ただし、予想と反して円高方向に為替が変動した場合は、為替予約をすると円高によるメリットを受けることはできません。為替の動きを吟味してから、為替予約でリスクヘッジを取るか決定しましょう。
ビジネスにおけるリスクヘッジ
ビジネスにおいても、あらかじめ、様々なケースを想定し、各ケースにおける対処策を講じておくことが必要です。
例えば顧客に保険の見直しプランを1つしか提案しないならば、そのプランを顧客が気に入らないときは契約まで話を進めることができません。「またプランを考えてから出直します」と一旦会社に戻って保険プランを立てている間に、顧客が別の保険会社と契約を結んでしまう可能性もあるでしょう。
最初から保険プランを5つ用意して顧客に提案すればどうでしょうか。プランAが気に入らなくても、BやC、D、Eを気に入ってくれる可能性があるため、プランを1つのみ提案する場合と比べて契約できる可能性は高まります。
また、すべての書類をコピーして残しておくといった小さなことでも、会社の危機を回避するリスクヘッジになることがあるでしょう。万が一のことが起こったときでもスムーズに対応できるように、想像力を働かせて、あらゆる危機に備えた対処策を構築していくことが必要です。
転職活動におけるリスクヘッジ
現在の仕事が自分に合わないとき、あるいは給料や休日などの勤務条件に問題があるときなど、転職を考えるタイミングは様々ですが、衝動的に転職をするのではなくリスクヘッジをしておくことが大切です。例えば在職中に転職先を決めてしまうならば、無収入・無職になるリスクを回避できるでしょう。
在職中に転職先が決まっても、現在の職場を円満に辞めることができないならば、後味が悪くなってしまいます。場合によっては執拗な引き留めを受け、予定していた日に転職できなくなるかもしれません。できるだけ早めに現在の職場に退職する旨を伝えて、上司の理解を得ておくことができるでしょう。また、退職までに十分な時間を設けることで、業務の引き継ぎを行いやすくなるというメリットもあります。
副業におけるリスクヘッジ
現在の職場で給料が下がる可能性があるとき、あるいは昇給が見込めないときなどは、家計を維持するためのリスクヘッジとして副業を始めることができるでしょう。しかし、副業自体もリスクヘッジを考えておかないと、思わぬ危険に巻き込まれることがあります。
例えば会社で副業を禁じられている場合、減給や解雇のリスクがあるでしょう。副業を始める前に就業規則を確認しておくことで、リスクを回避できます。また、副業が可能な職場であっても、副業が忙しくなり過ぎて本業に影響が出てしまうようでは問題です。場合によっては減給や降格などのペナルティが課せられることもあるので、本業に影響を及ぼさない程度に副業の仕事量を調整することでリスクヘッジできるでしょう。
リスクヘッジスキルを身につける3つの方法
仕事においても日常生活においても、常に起こり得る危険を想定し、リスクヘッジをしておくことは大切なことです。リスクヘッジスキルを習得するための方法について見ていきましょう。
1.物事の系統立てて判断する
突発的なことが起こって危険が生じることもありますが、多くのリスクは系統立てて考えれば予測がつくものです。物事を系統立てて考え、判断する習慣をつけておくことで、リスクヘッジがしやすくなるでしょう。
例えば大口の案件を取り付けるために、一泊二日で出張に行くとします。どんな準備が必要かと考えるだけでは、忘れ物をしたりスケジュールをすべてこなせなかったりする可能性があるでしょう。しかし、「課長と待ち合わせている時間と場所」「交渉の約束をしている時間と場所」「過去の交渉から予想される質問とその答え」という風に、時系列にポイントを分けて必要なものや時間について検討していくならば、出張を成功裏に終えることができます。
2.多面的に判断する
特定の部分だけを見て判断すると、起こり得るリスクのうち、ごくわずかしか予想できなくなってしまうでしょう。例えば出張に行く前に手土産を探していたとします。いつも取引先に行くと女性の担当者が一人で出迎えてくれるため、女性向けのハンカチを1組、手土産として用意したとしましょう。
しかし、今回に限って3人ものスタッフが出迎えてくれ、交渉も同じく3人が担当したとします。1つしか手土産を用意していないならばどうでしょうか。相手に渡すわけにもいかず、気詰まりな思いをするかもしれません。多面的に判断していたならば、多めに手土産を用意したり、大勢で分けられるお菓子などを手土産にしたりすることで、予想外の状況にも対応できたはずです。
3.過去の行動から学ぶ
今までの失敗や出来事からもリスクヘッジスキルを習得することができます。手土産が不足して気詰まりな思いをしたのなら、次回からは多めに用意することで万が一に備えることができるでしょう。また、うまくいったケースであっても、「もっとよい方法はなかったのか」と考えることで、よりよい対応策を思いついたり、よりスマートな対処法を発見したりすることがあります。
最後に
物事を系統立て、なおかつ多面的に判断して起こり得るリスクを予想し、未然に対処策を講じておくことがリスクヘッジです。投資やビジネスだけでなく日常生活においても、さまざまなリスクが生じます。普段から系統立てて考える習慣、多面的に見る習慣をつけておくことで、リスクヘッジスキルを養っていきましょう。