定款作成とは、会社の根本原則をまとめたルールブックのようなもの。会社法に則って作成する必要があり非常に重要です。本記事では、記載内容から士業依頼のポイントまで説明します。
「定款作成とは?」と思い悩んでいる人はぜひこの記事を参考にしてください。
定款とは?わかりやすく解説
定款とは、会社を設立する際に作成する会社の根本原則を定めたものですが、好きなように作成していい訳ではありません。定款は、会社法に則って作成する必要があり、概要が分かるものでなければいけないのです。ここでは、定款の基本的なことから記載内容まで詳しく解説します。
会社の根本規則を定めたもの
定款とは、会社の根本原則を定めたものです。会社を設立する際に作成するもので、公証役場で認証を受け、さらに法務局で登記の手続きを行わなければなりません。公証役場でも法務局でも、内容に誤りがないかどうかを厳しくチェックされます。
定款を作るのは、様々なトラブルが生じた場合に備えて責任の所在を明らかにするためです。好きなように作成して良い訳ではなく、記載内容は会社法によってきちんと決まっています。次に、どのような内容を記載するのか詳しく解説しましょう。
定款に記載する3つの内容
定款の内容は3つに区分され、必ず記載する内容から任意で記載する内容まで様々です。絶対的記載事項は、漏れがあると無効となるため、間違いのないようにひとつずつ確認しながら記載する必要があります。記載する内容が分からない場合は、行政書士や司法書士のようなプロに依頼するのもひとつの方法でしょう。
1.絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、必ず記載しなければいけない事項のことです。この事項に漏れがあると、定款そのものが無効とみなされます。そのためこの部分は、漏れがないように間違いのないように細心の注意を払いながら記載しなければなりません。
絶対的記載事項に記載する内容は、次の5つです。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価値またはその最低額
- 発起人の氏名または名称および住所
1の「目的」には、その会社が行う事業内容を記載します。法的にはここに記載された事業内容しか行えないため、先々のことを考え3〜10個ほど記載しておくことをおすすめします。例えばレストランであれば「飲食業」、パン屋であれば「パン製造販売」となるでしょう。
2の「商号」には会社の名称を記載します。商号は自由に決められますが、次のように一定のルールがあり注意が必要です。
- 同一の住所で同一の商号はつけられない
- 「株式会社」を使う必要がある
- 公序良俗に反する文字は使えない
- 「支部」「部署」の文字は使えない
- 「銀行」「信託」「保険」の文字は使えない
- 他人の著名な商号や類似の商号は使えない
- 他社の商標は使えない
- 使える文字は決まっている:漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字(大文字、小文字)など
3の「本店の所在地」は最小行政区画である市町村まで、東京都の場合は〇〇区まで記載すれば大丈夫です。
4の「設立に際して出資される財産の価値またはその最低額」には出資額を記載します。「最低額〇〇円以上」または「出資額〇〇円以上」のいずれでも構いません。
5の「発起人の氏名または名称および住所」は個人の名称だけでなく、法人の名称や住所でもOKです。
2.相対的記載事項
次に相対的事項ですが、絶対に記載しなければいけないという訳ではありませんが、万が一のトラブルに備えて記載したほうが良い事項です。
- 現物出資:お金以外の出資で、土地や車などのこと
- 財産引受:会社が受け取るまたは買う予定の財産のこと
- 発起人の報酬・特別利益:発起人の報酬や利益のこと
- 設立費用:例外的な費用のこと
3.任意的記載事項
最後に任意的記載事項ですが、基本的に記載する必要のない項目です。ここの記載がなくても設立に何ら問題はありません。法律に違反しなければ、どのような内容でも記載することが可能です。
定款は、その内容に変更が生じた場合、変更点を反映させる必要があります。変更には「株主総会の特別決議」が必要で、手続きに手間暇がかかり面倒です。できるだけ変更しなくてもすむように、先々のことをよく考えて作成しましょう。
会社には原始定款と現行定款の2種類が必要
定款には、原始定款と現行定款の2種類があります。会社は生き物のようにどんどん成長するものです。会社が大きくなるにつれ、本社を移転させたり資本金を増やしたりといった変更は度々起こり得るでしょう。
内容に変更があれば変更点を反映させる必要があります。そのため、必然的に2つの種類が出来上がるのです。
1.原始定款
原始定款とは、会社設立するときに作成する定款のこと。先ほど説明したように、会社設立時に公証役場で認証を受けた定款です。
原始定款は、そのものを書き換えることはできず、本社所在地にある公証役場で20年間保管されることになっています。20年が過ぎると、再度作成し直さなければなりません。
2.現行定款
現行定款とは、現時点で法的に有効なものです。言い換えれば最新のものといえるでしょう。
企業活動を行う間に何回も変更点が生じれば、その度ごとに変更点を反映させたものを作成しなければなりません。ただし、原始定款を書き換えることはできず、変更点を反映させた別のものを作成します。なお、新しく作成した定款には、公証役場の認証は必要ありません。
定款作成の手段の1つ「電子定款」とは
電子定款とは、紙ではなく磁気媒体で作成した定款のこと。ここでは、近年の法改正によって利用できるようになった電子定款について説明します。
印紙代の4万円を削減できる
電子定款の大きなメリットは、印紙代の4万円を削減できることです。印紙代とは、紙の文書に対して課税される税金のこと。通常、会社設立には4万円の収入印紙を添付する必要がありますが、電子定款は紙ではないため、この収入印紙が必要ないのです。
電子定款を作成するためには、電子証明の取得や専用ソフトが必要であり、費用は10万円ほどかかります。個人で電子定款を作成すれば印紙代よりも費用がかかり、あえて電子定款を利用する理由はないでしょう。
しかし電子定款業務を士業(行政書士や司法書士など)に依頼すれば、報酬はかかるものの印紙代を削減できるでしょう。定款作成業務を士業に依頼する場合は、電子定款に対応している士業を選ぶことをおすすめします。
なお、株式会社の電子定款認証はどこの公証役場でも受けつけている訳ではありません。整備されている公証役場でしか電子定款認証は行えないため、事前に確認する必要があります。
定款作成日に注意が必要である
定款を作成する際には、定款作成日と資本金の振込日には注意が必要です。定款とは会社の様々な根本原則を定めたもので、資本金の金額ももちろん含まれます。
そのため順番としては、定款に会社の資本金を記載してから資本金を振り込むのが正しいでしょう。資本金の振込日が定款作成日よりも前だと不自然となり、法務局で受け付けてもらえません。もし発起人が複数人いれば、再度の振込みはかなり面倒でしょう。
定款作成日を記載するときはくれぐれも気をつける必要があるのです。
定款作成〜会社設立までの流れを把握しよう
ここでは、定款作成から会社設立までの流れを説明します。会社設立には、流れそのものを把握することも大切ですが、様々な日付の意味を理解することも重要です。この日付を間違えると、法務局で受け付けてもらえないこともあるため注意しましょう。
基本的な大まかな流れから
まずは大まかな流れから説明しましょう。
一番最初に定款を作成します。次に公証役場に出向き、定款を認証。次に法務局へ出向き登記の手続きを行い会社設立となります。一連の流れはシンプルで簡単そうですが、それぞれの日付が重要です。
また、定款作成の前に法人用の印鑑を作っておきましょう。代表者個人の印鑑だけでなく、会社の「法人実印」も必要です。今後のことを考え、銀行印、社印、ゴム印(社名や所在地、電話番号、代表者の名前が入ったもの)などをまとめて作っておいてもいいでしょう。
ステップ1.定款作成(定款作成日)
はじめに定款を作成します。先ほども述べましたが、定款に記載する事項は次の通りです。
- 絶対的記載事項
- 相対的記載事項
- 任意的記載事項
- 法人登記で必要な記載事項
複数人で会社を設立する際には、全員で話し合って作成することが大切です。また法務局に提出するために議事録を作成します。出資金に関わるトラブルはよく起こるため、トラブルを避けるためにも議事録の作成は必須です。
なお、電子定款の作成業務を行政書士や司法書士にお願いする場合、定款作成と電子認証について発起人の委任状が必要ですが、委任状の日付は定款作成日よりも前でなければなりません。
ステップ2.定款認証(定款認証日)
次に、定款認証です。定款を公証役場へ持っていきますが、会社の本社(本店)所在地を管轄する公証役場に持っていく必要があります。管轄の公証役場は、次のHPで確認することが可能です。
※参考:「日本公証人連合会」https://www.koshonin.gr.jp/
公証役場に持っていくものは、次の通り。
- 定款(同じものを3通)
- 発起人全員分の印鑑証明
- 収入印紙4万円分
- 手数料5万円
- 定款の謄本交付手数料(1ページ250円)
前もって定款を公証役場にFAXなどで送付し、内容を確認してもらうことも可能です。公証役場で不備が見つかると二度手間になるため、先に確認してもらうほうが良いでしょう。
定款の内容に問題がなければ、そのまま受理されます。1通は原本として公証役場で保管され、2通は謄本として持ち帰りましょう。
2通のうち1通は、会社設立の登記に必要です。もう1通は会社で大切に保管します。後々、法人名義の銀行口座開設や税金関係などの手続きに必要です。
定款認証されると、定款は法的効力を有したものになります。なお、持分会社といわれる株式を発行しない会社設立であれば、公証人の認証は必要ありません。
ステップ3.資本金の振込み(資本金払込日)
定款認証されたら、資本金の振込みです。会社名義の銀行口座は、会社設立後でなければ開設できないため、発起人の個人口座に振り込みます。
振込みが済んだ銀行口座の表紙、表紙をめくった裏表紙(名義人名や番号が書かれているページ)、出資金の入金が確認できるページのそれぞれをコピーしておきましょう。これらは、資本金が振込まれたことを証明する「払込証明書」を作成するのに必要です。
作成した「払込証明書」に法人実印を押印します。押印する場合、訂正がある場合に備えて捨印も押しておきましょう。
ここでのステップ通りに手続きを進めると、この時点での定款作成日は、振込み日前になっているはずです。定款作成後の資本金の振込みであれば、問題なく法務局で受け付けてもらえるでしょう。
電子定款の場合は、資本金振込みについて通常の流れとは異なる点があります。電子定款を行政書士や司法書士に依頼した場合、行政書士や司法書士が電子認証した日と、公証人が認証した日にはズレが生じることが多々あります。
この場合も、正しい定款認証日は公証人が認証した日になりますが、行政書士や司法書士が電子認証した日以降であれば、公証人の認証日前であっても資本金を振込むことが可能です。
ステップ4.法務局へ提出(会社設立日)
最後に、法務局で登記の申請を行います。なお、法務局に申請した日が会社設立日です。登記申請に必要となる書類は、次の通りです。
- 設立登記申請書
- 定款(謄本)
- 登録免許税納付用台紙
- 発起人決定書(発起人議事録)
- 代表者取締役の就任承諾書
- 取締役の就任承諾書
- 監査役の就任承諾書
- 取締役の印鑑証明書
- 印鑑届書
- 出資金の払込証明書
- 登記すべき事項を記録・保存した記録媒体など
会社の登記申請は法務局に出向く必要はなく、郵送やオンラインでも手続きを行うことが可能です。内容に不備がなければ申請から7〜10日で登記が完了します。
法務局から登記が完了した旨のお知らせはなく、書類に不備があれば連絡があるため、申請から10日ほど経っても連絡がないということが登記完了のお知らせと言えるでしょう。
定款作成を誰に依頼すべき?
定款作成業務を依頼する士業としてまず挙げられるのが、行政書士と司法書士です。定款作成は会社法に則って様々な書類を作成する必要があり、また手続きも煩雑なため、自分で作成するよりもプロに任せるほうが安心でしょう。ここでは、定款作成を誰に依頼すべきかについて解説します。
行政書士は定款作成まで可能
結論から言うと、行政書士は定款作成のみが可能で、登記の手続きは行えません。会社の設立は、大きく分けて定款そのものを作成するプロセスと登記手続きの2つのプロセスにわかれます。
行政書士はこの2つのプロセスのうち、定款作成業務と定款認証までが可能です。登記の手続きは司法書士のみが行える業務であり、行政書士が代理で手続きをすると違反になります。
行政書士に登記申請以外のすべての業務を任せる場合、おおよそ5〜8万円ほどの報酬になりますが、実際のところ報酬額は行政書士事務所によってかなり開きがあるのが実情です。依頼する場合は、前もって報酬額を確認することをおすすめします。
許認可が必要な場合は行政書士がおすすめ
行政書士は登記の手続きは行えませんが、許認可の手続きが必要な事業を立ち上げるときは行政書士がおすすめです。なぜなら許認可の手続きは、行政書士の専門分野だからです。
例えば建設業や運送業、飲食業などを起業するときは行政書士に依頼しましょう。認可漏れがあるとコンプライアンス違反になるため、専門家に依頼するほうが確実です。
司法書士は定款作成と登記手続きの両方可能
司法書士は定款作成と登記手続きの両方が可能です。許認可を必要としない場合、定款作成から登記の手続きまですべて丸投げすることができます。
司法書士に登記を含む会社設立の手続きを依頼する場合、報酬の相場は7万円〜10万円ほどです。こちらも事務所によって開きがあり、安く請け負うところから高額なところまで様々です。
自分で作成することも可能
定款作成や手続きは、自分で行うことも可能です。自分で定款を作成し自身で手続きを行えば、無駄な費用がかからず安上がりです。ただし、時間と手間をかけるだけの価値があるかどうかを考える必要があるでしょう。
行政書士や司法書士であれば、プロですから漏れはありません。費用はかかりますが、確実に定款作成から登記申請まで行えます。
また顧問契約前提ですが、会社設立を無料で請け負う事務所も少なくありません。本業に集中したい人であれば、契約を結ぶつもりで任せるのもひとつの方法です。顧問契約を結ぶと月々の費用がかかるため、安易に契約するのは考えものですが、自分の時間と費用を天秤にかけ、どちらがいいのかをよく考えて選択してください。
最後に
定款は会社の根本原則を定めたもので、会社を設立するときには必ず作成しなければならないものです。定款作成から登記申請まで様々な書類を準備する必要があり面倒ですが、行政書士や司法書士に依頼することもできます。
しかし費用を抑えたい場合は、自分自身ですべての手続きを行うことも可能です。いずれにしても会社の将来のために、より良い定款作りを目指しましょう。