障害者を雇うときの助成金とは、障害者の就労を促進する目的で行われている制度です。障害者を雇い入れた場合や雇用の適切な措置をとった場合などに支給されます。
本記事では、さまざまな助成金の内容について説明し、受給する際の注意点についても紹介します。
障害者助成金とは?
障害者助成金とは、障害者の雇用で必要になる費用の一部を支給し、障害者の新規雇用や雇用の継続を促進する制度です。障害者雇用に関わる様々な場面をサポートするために、いくつもの助成金が用意されています。
障害者の就労を促進するための制度
障害者助成金は、障害者の就労を支援することが目的です。厚生労働省の調査では、平成30年の障害者数は936.6万人に登り、人口の約7.4%に該当します。そのうち65歳未満は障害者全体の約48%を占めており、障害者の働ける環境が必要とされている状況です。
障害者雇用促進法では法定雇用率制度を設けており、45.5人以上の従業員を雇用している会社は一定の割合(法定雇用率)で障害者を雇用しなければなりません。2022年3月にはその割合が2.3%に引き上げられ、一層の努力が求められています。
しかし、障害者を雇用するにあたっては、障害者が働きやすい環境を整備しなければなりません。これまでの設備では対応できず、メンテナンスが必要になる場合もあるでしょう。雇用したあとの管理も必要以上にコストがかかる場合があります。
そのため、障害者の新規雇用や雇用の継続が難しい会社もあるでしょう。そのような場合に不足する資金を援助し、障害者を雇用できるようにするため設けられたのが障害者助成金です。
参考:厚生労働省「障害者の数」
障害者雇用の助成金の対象
障害者雇用の法定雇用率を満たす障害者とは、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳を持っている方です。障害者雇用の助成金は、これらの方の雇用が対象になるのはもちろん、それ以外でも、統合失調症、そう鬱病、てんかんの方を雇用した場合にも支給されます。法定雇用率を超えた雇用にも、積極的に助成が行われているのです。
障害者雇用に関する助成金の種類
障害者雇用に関する助成金は、多くの種類が用意されています。主に次のような場面で活用が可能です。ここでは、障害者に関する代表的な助成金を紹介しましょう。
障害者を雇い入れた場合
障害者を雇い入れた場合には、2つの助成金があります。特定の障害者を採用したとき、試行的に雇用したときに利用できる助成金です。
特定求職者雇用開発助成金
障害者をはじめ、就職が困難とされる者を採用した場合に支給される助成金です。就業の機会を増やし、雇用の安定を図ることを目的としています。以下の3種類があります。
(特定就職困難者コース)
障害者をはじめ、高齢者や母子家庭の母など、就職が難しいと判断された者を継続して採用した場合に支給される助成金です。
助成金の支給額は、短期労働者とそれ以外、重度障害者とそれ以外、中小企業とそれ以外という、3つパターンに分かれており、助成額は最大240万円です。
(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
公共職業安定所等の紹介で、発達障害や難治性疾患の方を採用した会社に支給されます。65歳以上までの継続で、2年以上の雇用期間が原則です。
(障害者初回雇用コース)
障害者雇用率制度の対象になるものの、これまで障害者を採用したことがない中小企業が対象です。初めて障害者を採用し、法定雇用率を達成した場合に支給されます。「初めて」とは、一人目の障害者を採用する前日までの3年間、障害者を採用した実績がない場合です。
1人につき、120万円の支給があります。短時間労働で採用した場合は障害者2人で1人とカウントしますが、短時間労働で重度の身体障害者・知的障害者を採用した場合は1人で1カウントです。
トライアル雇用助成金
安定的な就職が困難な求職者を、一定の期間試行雇用した場合に支給される助成金です。障害者に特化したコースもあり、障害者の適性や業務の可能性を見極めながら、相互理解を深めて障害者の早期就職を実現することを目的としています。2022年からは、テレワークによる勤務を行う場合、トライアル期間が6か月まで延長可能とされました。
短期コースでは、週10~20時間未満の短時間から始め、最終的に20時間以上の労働時間を目指します。トライアル雇用終了後も引き続き雇用する場合、特定求職者雇用開発助成金の受給も可能です。
雇用のために適切な措置を行った場合
障害者を雇用するために設備の整備など、受け入れる態勢を整えた場合に支給される助成金もあります。
障害者雇用納付金制度に基づく助成金
障害者雇用促進法が定める「障害者雇用納付金制度」に基づく助成金です。従業員が45.5人以上の会社では法定雇用率の達成が義務付けられていますが、障害者の雇用が進んでいない会社もあります。
そのような会社のうち従業員が100人を超える会社は、雇用が不足している人数につき、1人あたり月に50,000円の納付金を支払わなければなりません。それが「納付金制度」で、助成金はこの徴収された納付金を財源としたものです。
障害者を採用するために設備などをメンテナンスした場合などに利用できるほか、障害者雇用のために必要な措置に幅広く適用されます。介助の費用や障害者の通勤を容易にするための措置、手話通訳の利用なども対象です。
職業能力開発を行った場合
障害者の能力開発など人材育成のため、訓練設備の設置や運営を行なった場合にも助成金が支給されます。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、労働者一般の人材育成を目的にした助成金です。労働者がスキルアップすることで企業の生産性向上に繋がることを目的としています。7つあるコースのひとつに、「障害者職業能力開発コース」があります。障害者に対する職業能力開発訓練を実施する場合にその費用の一部を助成する助成金です。
厚生労働大臣が定める教育訓練の基準に合う職業訓練を行う、もしくは訓練に必要な施設や設備の設置をする場合に支給を申請でき、運営費などが支給されます。
職場定着のための措置を実施した場合
非正規に採用した障害者を正規社員に登用するなどの対応をした会社にも助成が行われています。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、広く非正規労働者を正社員に登用することを促進するための助成金です。有期契約社員や短時間社員、派遣社員といった、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するために設けられています。 障害者を対象にした「正社員化コース」は、2022年に新設されました。
具体的には、以下のいずれかを継続的に行った場合、助成金が支給されます。
- 有期契約社員を正規社員または無期契約社員に登用する
- 無期契約社員を正規社員に登用する
中小企業の支給金額は、以下の通りです。
(重度障害者の場合)
- 有期から正規社員への登用:120万円
- 有期から正規社員への登用:60万円
- 無期から正規社員への登用:60万円
(重度障害者以外)
- 有期から正規社員への登用:90万円
- 有期から正規社員への登用:45万円
- 無期から正規社員への登用:45万円
障害者の安定的な雇用を促進することを目的としており、積極的な活用が期待されています。
参考:厚生労働省「障害者を雇い入れた場合の助成」
障害者雇用に関する助成金の3つの注意点
障害者雇用の助成金を利用する場合、従事する業務への配慮などいくつかの注意点があります。
1.可能な限り通常の労働者と同じ業務にする
障害者であるからというだけで、通常の社員と違う業務にすることは避けましょう。配慮した結果とはいえ、ことさらに業務を別にするのは障害者にとって差別と感じるかもしれません。障害者でも通常と同じ業務で作業ができる場合があり、可能な限り同じ業務に従事できるようにしてください。必要があればサポートをする協力体制を作りましょう。
もちろん、同じように働けない障害者もいます。そのような場合は能力を発揮できる職場に人材配置をして、生産性を高められる労働環境を提供するようにしましょう。
2.障害者の特性に応じた環境を整える
障害者雇用で大切なのが、障害者が働きやすい環境の整備です。障害には身体、知的、精神、発達といった種別があり、それぞれ配慮すべき環境は異なります。同じ身体障害、知的障害、もしくは同じ障害名であっても、症状や日常生活で不自由とすることには違いがあるでしょう。一人ひとりの状況に合わせた環境を整えることが必要です。
また、設備だけでなく、一緒に働く人も障害者に思いやりを持つ環境が必要なのはいうまでもありません。
3.実雇用率のカウントに注意する
法定雇用率を満たすことが条件の場合、実雇用率のカウントには注意してください。人数でカウントするのではなく、労働時間や障害の程度などでカウント方法が変わります。カウントは、「身体障害と知的障害の場合」と「精神障害の場合」で異なるため、それぞれ紹介しましょう。
(身体障害と知的障害の場合)
1週間の労働時間が20時間から30時間未満である短時間労働者は、0.5人とカウントします。所定労働時間が週に30時間以上の場合は1人ですが、重度障害の場合のカウントは2人です。
(精神障害の場合)
精神障害の場合は障害の程度に関わらず、週の所定労働時間が30時間以上は1人、20時間以上30時間未満の場合は0.5人とカウントします。ただし、2023年まで特例措置が設けられており、精神障害者は短期労働者でもカウントは1人です。これには要件があり、2023年3月31日までに雇用され、かつ「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けていなければなりません。
障害者の雇用を定着させるための2つの課題
障害者雇用の助成金は充実していますが、職場に定着させるためにはまだ課題が残されています。法定雇用率を達成したいと思いながらも、定着しづらい現状に悩む担当者もいるでしょう。障害者雇用で克服すべき課題について紹介します。
1.障害に対する知識の不足
社員に障害に対する知識が少なく、適切な対応ができないという課題があります。障害者とともに働くことの影響としては、「仕事の進め方を見直すきっかけになった」「自分のライフスタイルや働き方を見直すきっかけとなった」という前向きの意見が見られることも。その一方で、「一緒に働く者の負担が増える」「社員の間に不公平感が生まれる」といったネガティブな意見もあります。
障害に対する知識が不足していると、協力も得づらくなるでしょう。課題を克服するためには、勉強会や研修を行うなど障害への理解を深めることも必要です。
また、担当するスタッフがサポートに慣れてなく、負担を感じてしまうという課題もあります。自身の業務にも影響が出る可能性もあるでしょう。可能であれば、サポートに福祉などの経験がある社員を配置するといった配慮も必要です。
2.受け入れ態勢の不備
受け入れ態勢が十分に整っていないと、障害者の定着率は低くなります。オフィスのバリアフリー化や適切な業務の振り分け、フォローの体制など、障害者が快適に働ける環境が必要です。
また、業務を簡易にする、時間を短縮するなどの配慮をすることで賃金も変わってきますが、そのことが障害者のモチベーションに影響を与えないようバランスを考えることも求められるでしょう。
最後に
近年、障害者の法定雇用率が引き上げられるなど、障害者雇用の促進は国の大きな課題となっています。障害者雇用の助成金はさまざまな種類が設けられ、積極的な雇用が求められているといえるでしょう。障害者の雇用は社会義務を果たしている会社として信頼度も高まります。雇用の義務がない中小企業でも、積極的に障害者の雇用を検討してみるとよいでしょう。