労働者派遣法とは?過去や2022年の改正内容と違反事例を解説

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労働者派遣法とは、派遣労働者の保護と雇用の安定を図ること、そして企業と人材間で適切な労働力のマッチングを目的として定められた法律です。厚生労働省ではこの労働者派遣法が適切に運営されるよう、これまでにさまざまな対策や改正を行ってきました。

本記事では労働者派遣法について、主な概要や歴史、これまでの改正点や変更ポイントなどについて解説していきます。

目次
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労働者派遣法とは?

労働者派遣法とは、派遣労働者の賃金や福利厚生など就業条件の認定を目的に制定された法律です。

正規雇用に比べ低賃金で雇用できる派遣労働者は、企業側にとって人件費を削減できる、あるいは人材の雇用リスクを回避できるという点で重宝される存在です。

その一方で派遣労働者側は、正社員に比べて給与や福利厚生の条件が悪い、あるいは契約を途中で打ち切られたり期間満了のタイミングで更新されなかったりといった、さまざまな懸念材料を抱えています。

派遣労働法は、雇用者側や正社員にくらべ弱い立場である派遣労働者を不当な労働から保護するための法律なのです。

派遣法の歴史

1980年代当時、人材派遣という労働スタイルは職業安定法で禁じられていました。しかし正社員雇用ではなく、必要なタイミングで適宜労働力の供給を求める企業側と、時間や場所にとらわれない働き方を希望する労働者側のニーズに対応し、1985年に労働者派遣法が制定、1986年より施行されたのです。

1986年の派遣法施行により、専門知識を要する13業務(同年に16業務へ拡大)を対象に、人材という労働スタイルが認められました。また10年後の96年には、対象業務数が26種類へ増加します。背景としては、80年代後半から90年代前半にかけて起きたバブル経済の崩壊がありました。多くの企業が経営不振に追い込まれ、人件費を削減できる人材派遣への需要が拡大。それにともない、対象となる業務の増加が推進されたのです。ただし、当時の派遣期間は1年限りに限定されていました。

その後も労働者派遣法は着々と変革を遂げ、99年には禁止された業務を除く派遣業種の原則自由化が施行。もともと許可されていた26業種の派遣期間は、最長3年間に拡大されました。

2000年には派遣先企業へ直接雇用されることを前提に派遣される「紹介予定派遣」制度が解禁され、その後も2012年度まで派遣業種や期間に関する改正が行われました。

2012年の派遣法改正と主な変更点

1985年に制定された労働者派遣法は、労働者の正当な権利を守る名目でこれまでに幾度もの改正を繰り返しています。

2012年10月より施行された法律改正では、派遣労働者の保護と雇用の安定を図るために以下のポイントが変更となりました。

派遣元のマージン率の公開

派遣会社のマージン率や教育訓練の取り組み状況を、派遣元はインターネットなどで公開することを義務付けられました。派遣会社のマージン率とは、派遣先が派遣元に支払った料金から労働者の給与を差し引いた金額、つまり派遣元の取り分の割合を指します。

  • 派遣先に実際に派遣される
  • 派遣会社と労働契約を締結する
  • 派遣料金が変更される

上記のとき、派遣会社は労働者に派遣料金(派遣先が派遣元に支払った料金)がいくらかを明示しなければなりません。

派遣元による待遇の説明を義務化

派遣会社は労働者との契約締結の前に、「待遇」に関する以下の項目について説明する義務があります。

  • 賃金の見込み額や待遇について
  • 派遣会社の事業運営について
  • 労働者派遣制度の概要について

不当な労働契約によって、労働者が不利な条件で雇用されることを防ぐために定められました。

期間の定めのない雇用へ転換

これまで有期雇用が当たり前だった派遣労働者ですが、2012年の改正により通算1年以上の派遣労働を務めた者は、期間の定めのない無期雇用への転換が進められるようになりました。

派遣会社は労働期間の条件を満たした派遣労働者の希望に応じて、以下3つのいずれかの措置を取らなければなりません。

  • 無期雇用に転換する機会の提供
  • 派遣先での直接雇用を推進するため、紹介予定派遣の対象とする
  • 無期雇用への転換を推進するために、教育訓練などを実施

紹介予定派遣とは、派遣期間修了後に派遣先の企業と直接雇用を結ぶ前提で派遣される就業形態を指します。

30日以内の日雇い派遣を禁止

2012年の改正より、雇用期間が30日以内の日雇派遣は原則禁止となりました。

派遣会社・派遣先のそれぞれで雇用管理責任が果たされておらず、日雇い労働者の雇用の不安定さが問題視されたことが大きな要因です。

ただし以下の要件に当てはまる場合に限り、例外的に日雇い派遣が許可されています。

  • 60歳以上の者
  • 雇用保険の適用を受けない学生
  • 日雇派遣に副業として従事する者(最も大きな収入源が500万円以上)
  • 主たる生計者でない者(世帯収入500万円以上)

離職後1年以内の同会社勤務を禁止

離職して1年以内の労働者を、派遣会社が元の職場に再び派遣することは禁止されました。導入された背景としては、本来なら直接雇用として元の会社に雇われるはずだった労働者を、派遣労働者に切り替えることで賃金を安く雇用することを防ぐためです。

ただし、60歳以上の定年退職者は例外として扱われます。

2015年の派遣法改正と主な変更点

2015年の改正では、労働者の不安定な雇用状況や不明確な契約期間の見直しが行われました。

派遣元へのキャリア形成支援を義務化

2015年の改正時に、はじめて派遣会社から派遣労働者へのキャリア形成支援が義務化されました。

主な内容としては、希望労働者に対するキャリアコンサルティングの実施や、あるいは派遣社員のキャリアの形成が促進されるような計画的な教育研修など。正社員にくらべ十分なキャリア教育の機会が得られない派遣労働者のために制定されました。

フルタイムで1年以上の雇用見込み者には、毎年8時間以上・3年間の教育研修の実施が義務付けられています。

「3年ルール」の適応

2015年の改正より、すべての派遣先企業および派遣労働者には、同一部署労働に3年の期間制限が正式に義務付けられました。

仮に派遣先企業が3年を超えて労働者を受け入れたい場合、労働組合らの意見を聞かなければなりません。また労働者側が継続して勤務を希望する場合は、別の部署であれば同企業での労働が認められています。

ただし無期雇用の派遣社員や60才以上の高齢者、産前産後・育児・介護休業の代替社員など、例外的に3年の期間制限が適用されない労働者もいます。

「2018年問題」について

2015年に施行された「3年ルール」の影響を受け、2018年に多くの企業が有期雇用者の雇用期間を更新せず、契約を終了させる「雇い止め」が多発することが懸念視されていました。これを「2018年問題」といいます。

3年ルールにより、派遣元企業は同一派遣先に労働者を3年以上派遣できなくなりました。つまり、派遣先企業に無期労働契約への転換や直接雇用を依頼することとなるため、雇用対応が求められる派遣先に莫大なコストと負担がのしかかることが予想されます。

また正社員として雇用すれば、福利厚生や賞与などそれまで発生していなかった人件費が発生するでしょう。

2018年問題は、経費圧迫を恐れる企業と安定を求める労働者の双方が、今後も引き続き解決に向けて対処し続けなければならない課題と言えるでしょう。

2020年の派遣法改正と主な変更点

この改正では、受け入れできる業種や期間に関する変更はありませんでした。派遣労働者の不合理な待遇を禁止し、労働者の権利を守ることを主眼に置いた改正と言えるでしょう。

派遣社員の賃金決定の厳格化

「同一労働同一賃金」の実現化に向け、派遣元企業は派遣労働者に対し以下2つのいずれかの方法で賃金を決定するよう義務付けられました。

  • 派遣先均等・均衡方式
  • 労使協定方式

「同一労働同一賃金」とは、同一業務に従事する労働者は、みな同じ水準の賃金が支払われるべきという概念のこと。「派遣先均等・均衡方式」は、派遣先のフルタイムで働く無期雇用の社員と労働条件を比較することで、派遣労働者にも均衡のとれた待遇を提供するというものです。

一方の「労使協定方式」では、派遣元の会社と派遣労働者との間で賃金を決定します。しかし、この方法で賃金を決める際、派遣労働者への賃金額は一般労働者平均の同額以上にしなければなりません。

派遣先から派遣元への情報提供を義務化

派遣先企業は派遣元の求めに応じ、派遣労働者に対する比較検討労働者の仕事内容や賃金、賞与などの「待遇面」について情報を提供する必要があります。

比較対象労働者とは、派遣先企業で働く正社員のうち、派遣労働者と同様の仕事をしている者を指します。

この制度により派遣労働者と派遣先の正規雇用者との間に、不当な待遇差が生まれないことを図っています。

派遣元の派遣社員への情報提供を義務化

派遣先企業・派遣元からの派遣労働者に対する、労働環境や待遇についての情報提供も義務付けられました。派遣労働者が派遣先での待遇に納得した上で、契約を結ぶことを目的としています。

また労働者に条件の開示を必須とすることで、不当な契約を未然に防ぐという意図もあります。

2022年の派遣法改正と主な変更点

2022年には1月1日、4月1日の2度にわたり労働派遣法が改正されました。労働派遣法において、改善の余地があった項目の補足的な内容が主な変更点です。以下で、詳しい内容を見ていきましょう。

2022年1月の改正点

2022年1月には、以下のポイントが改正されます。

  • 派遣先は派遣会社に対し、雇入時にキャリア形成支援の内容説明を義務とする
  • 労働者派遣契約に関する書面を電磁的記録で作成することを可能とする
  • 派遣先に対する派遣労働者からの苦情には、誠実に対応しなければならない
  • 日雇派遣の契約解除に対して、派遣元の労働者に対する休業手当の支払いを義務化

過去の法律改正で義務化された「キャリア形成支援」などの施策が具体化され、より派遣労働者の立場を守る内容が強化されました。

例えば派遣労働者は正規雇用社員と異なり、1つの職場で長期的にキャリアや経験を積むことが困難です。そのため派遣元の会社から労働者へ、積極的にキャリア訓練やコンサルティングも責任をもって実施することが義務付けられました。

あるいは日雇派遣労働者への休業手当の支払い義務に関しては、自身に責任がなく企業側の都合で契約解除になった派遣労働者に対し、次の就業先を見つけるまでの生活を保証するために制定された内容です。改正により派遣企業は日雇派遣であっても、休業補償の支払いと雇用の維持を義務付けられました。

2022年4月の改正点

2022年4月には、以下のポイントが改正されます。

雇用安定措置に関する派遣社員の希望聴取の実施

「雇用安定措置」とは、同組織に3年間継続して派遣される見込みのある者に対し、派遣元企業が何らかの支援をしなければならないという規則です。

2015年の3年ルールで触れたように、労働者は同企業の同一部署に3年以上連続して派遣されることができません。そのため3年以上の勤続を望む労働者に対して、派遣元は「派遣先企業への直接雇用を依頼する」「新たな派遣先を紹介する」など、何らかの措置を取る必要があります。

今回の改正では、雇用安定措置に労働者の意識がより反映されるように「派遣社員の希望聴取の実施」が新たに取り入れられました。

常時インターネットでの情報提供について

2012年の改正で「派遣元企業のマージン率開示の義務化」が取り決められました。このような提供の義務がある全ての情報について、派遣元企業は常時インターネットなどの方法を用いて情報を開示・提供しなければなりません。

労働者派遣法の違反事例

労働者派遣法で禁じられている派遣行為に手を出すことは、違法行為として罰則の対象となります。覚えておくべき違法な派遣形態について見ていきましょう。

二重派遣

「二重派遣」とは派遣労働者を受け入れた派遣先企業が、さらにその労働者を別の企業に派遣する行為を指します。派遣法は労働者と派遣元企業、派遣先企業3者の間に成立するため、労働者をさらに別の企業へ送ることは法律違反です。

派遣法が適用されない別企業の仲介により、労働者が不当な扱いを受けるリスクを防ぐことができます。

専ら(もっぱら)派遣

「専ら派遣」とは、派遣会社が特定の派遣先のみに労働者を派遣することです。特定の企業以外からの派遣依頼を断る、あるいは新規の派遣先に営業活動を行わないなどの行為が該当します。企業としては直接雇用のリスクを負わず労働力を安く獲得できるというメリットがありますが、労働者の雇用を守る観点からは不適切でしょう。

この規則により、本来正社員として雇用されるべき労働者の権利が奪われること無く、正当な雇用機会が得られることが求められています。

最後に

今回は「労働者派遣法とは」というテーマで、派遣法の概要や歴史、また2012年以降の法改正で変更されたポイント等について解説しました。働き方改革や日本社会の雇用形態の変革により労働者派遣法は派遣労働者の立場を守る法律として、今後さらなる充実と柔軟な改正が求められると予想されます。

派遣先および派遣元企業は、今一度派遣法に対する理解を深め、労働者を受け入れる環境づくりを見直す必要があるでしょう。本記事が労働者派遣法の理解に、少しでもお役立ちできたならば幸いです。

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