降格人事とは?違法にならず懲戒処分や異動を行うための4つの注意点

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社員の降格人事は慎重に行わなければなりません。特に減額を伴う場合は注意が必要です。初めて降格人事を検討する会社では、違法となるケースについてもよくチェックしておいた方がよいでしょう。

本記事では、降格人事の種類やどのような場合に行えるのかについて説明し、特に注意したい点なども詳しく紹介します。

目次
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降格人事とは?

降格人事とは、組織において地位や役職を従来よりも下位に配置することです。降格の理由により種類が分かれるため、それぞれ紹介します。

降格人事の種類

降格人事は次に紹介する2種類に分かれます。

人事異動

人事異動は経営上の必要性や個人の知識不足など、現在の地位や職務がふさわしくないと判断された場合に行われます。企業には社員の配置転換などを決定できる人事権を持っており、人事異動による降格も権利行使の範囲内です。

人事異動による降格には、次の2種類があります。

  • 職位の引き下げとしての降職(解任)
  • 職能資格の引き下げとしての降格(降級)

「職位の引き下げとしての降職」とは、部長から課長になる場合など、役職を解いて下位の職位に変更することです。

「職能資格の引き下げとしての降格」とは、能力や経験に応じて定められているグレードを引き下げることです。

人事異動による降格は人事権の行使として広く行えますが、労働契約に従事する職種などの制限がある場合、それに反する降格はできないので注意が必要です。制限を超える降格を行う場合は、理由を提示して労働者の同意を得る必要があります。

また、減給を伴う場合は処分の正当性について厳しく判断しなければなりません。この点については、後の項目で詳しく説明します。

懲戒処分

懲戒処分による降格人事は会社の秩序を著しく乱す行為をした従業員に対し、処罰を加えるため懲戒権の行使として行われます。懲戒権とは、規律違反に対し制裁を科すことができる権利です。

懲戒処分は非常に重い処分のため、企業の裁量は人事権のように広くありません。就業規則には懲戒事由となる行動や懲戒処分の内容を明らかにし、記載された内容に沿って処分を行うことが必要です

降格人事が行われるケース

降格人事には正当な理由がなければなりません。降格人事として違法にならないケースはどのような場合か、見ていきましょう。

配置転換による場合

配置転換に伴って降格になる場合があります。配置転換とは会社の人事権を使い、職種や所属部署、勤務地などを変更することです。配置転換の法的根拠は労働契約になるため、就業規則への記載が必須というわけではありません。ただし、記載しておけばスムーズな配置転換を行いやすいでしょう。

配置転換による降格は、必ずしも本人の能力不足とは限りません。配転先での業務経験が不足と判断するときは、スキルを高める期間を設けるためにあえて降格という形をとる場合もあります

会社が人事権を有するといっても、権利の乱用と認められる配置転換は許されません。トラブルを事前に防ぐには、従業員に降格の理由を説明することも必要になるでしょう。

能力不足の場合

能力不足も降格人事の理由になります。会社が設定した目標に対し成績がはるかに及ばない、仕事でミスばかりしているなどがこれに当たるでしょう

個人の能力だけが配置転換の理由になるわけではありません。生産現場での品質低下や効率悪化などがある場合、現場管理者が責任をとって降格になるケースもあります。

勤務態度が悪い場合

勤務態度が著しく悪い場合は懲戒処分による降格人事の理由になります。ただし、懲戒処分は重い処罰のため、改善の指導は必要になるでしょう。

遅刻が多い、無断欠勤をしたというだけでは、ただちに懲戒処分ということにはなりません。再三注意しているにも関わらずまったく改めようとせず、他の社員にも悪影響を与えるといった場合が該当します。

懲戒処分の正当性については、社会通念上妥当か否かが裁判所の示す判断基準です。社会通念の判断で争いになるのを防ぐため、懲戒処分で降格人事の対象になる行動については明確な基準を設け、就業規則等に明記する必要があります。

降格人事の処分内容

降格人事の処分内容はただ異動や出向のみの場合だけでなく、減給を伴う場合もあります。それぞれについて見ていきましょう。

減給する

賃金は重要な労働条件であり、その減給には慎重な判断が必要になります。人事異動において「職位の引き下げとしての降職」を行う場合、基本給は必ずしも変わるわけではありません。しかし、役職手当が変わることで減額になる場合があります。直接的に基本給が減額になるのは、「職能資格の引き下げとしての降格」です。

これら減給が伴う降格は労働契約の不利益変更にあたり、就業規則等に明確な根拠がなければなりません

言及を伴う場合は、次の内容がすべて整っているかを確認しておきましょう。

  • 賃金体系が就業規則で明確に定められている
  • 降格と賃金減少の関連性が就業規則に明記されている
  • 降格の手続きが就業規則に沿って行われている
  • 減給の決定過程が合理的で、社員に弁明の場が設けられている

懲戒処分による減額をする場合も同様に、就業規則に明記されていなければなりません

異動や出向のみ

降格人事は異動や出向のみで、減額が伴わない場合もあります。減額を伴う降格は厳しく判断されますが、賃金減額を伴わない降格は比較的自由な実施が可能です

その場合でも、労働契約で職務制限などがないか確認することは必要です。発令前に本人との面談の場を設けるなどの手順を踏むようにするのが適切でしょう。

異動は人事権行使として会社に裁量権が認められますが、出向は民法の規定上、原則として労働者の同意が必要です。ただし、就業規則等に出向期間や出向中の地位、賃金など労働者の利益に配慮した詳細な規定があれば、同意がなくても出向を命じることができます。

降格人事が違法になる場合

降格人事は方法を間違えると訴訟につながる場合もあり、決定を下す前に違法にならないかを慎重に検討しなければなりません。

ここでは、降格人事が違法になる場合について紹介します。

減給が法の定める上限を超える

降格人事で減給する場合は就業規則に明確な根拠が必要になることは先述しましたが、減給には労働基準法第91条で上限が定められています

  • 減給できるのは違反行為1回につき半日分の賃金
  • 違反行為が複数回ある場合は、賃金総額の10%を上限とする

この規定を超えた減額は違法となるため、注意してください。

懲戒権や人事権の乱用にあたる

懲戒権や人事権の行使であっても、それが乱用に当たると認められる場合は違法です。また、降格人事が就業規則の記載に沿って行われた場合でも、乱用にあたるとして降格人事が無効になった裁判例もあります

特に裁量権の広い人事権の場合は、権利の乱用が争われる事例が多くあるため注意が必要です。

これまで裁判例で、人事権の乱用につき提示されているのは次のような判断です。

  • 使用者側の業務上、組織上の必要性の有無や程度
  • 能力や適性の欠如など、労働者側の帰責性の有無や程度
  • 労働者の受ける不利益の性質や程度

これらを総合的に考慮し、使用者が裁量を逸脱しているかを判断するとされています。このような判断基準に照らせば、次のような場合は違法と判断されやすいでしょう。

  • 業務上の必要もないのに転居を伴う転勤を命じた
  • 些細なミスをしただけで他部署に配置転換した
  • 育児休暇を取得したことを理由に役職を解任した
  • 2段階以上の極端な降格を行なった

降格人事を行う場合の注意点

降格人事を行う場合は違法な処分にならないよう、次の点に注意しましょう。

就業規則に記載する

降格人事は労働者に不利益を与える処分であり、安易に行われてはなりません。降格に関する内容が就業規則に明記され、記載項目に沿った処分であることが大切です。

特に就業規則への記載が必要とされるのは、等級引き下げの降格と懲戒処分の場合になります。乱用を避けるため、明確な基準を設けなければなりません。

降格の理由を明らかにする

降格の理由も明らかにしなければなりません。勤務怠惰や能力不足などの報告がある場合は、それを示す客観的な証拠が必要です

能力不足を理由とする降格人事は客観的なデータだけでなく、改善する機会を与えたかも重要なポイントになります。

また、権利の乱用にあたらないかどうかも慎重に検討する必要があります。

伝え方は必ず正式文書で行う

就業規則に降格の根拠があり、理由も客観的に明らかである場合でも、いきなり処分を伝えずに社員に理解してもらえるよう説明しましょう。特に給与の減額がある場合は労働条件の不利益変更になるため、十分な説明が必要です。

伝達は必ず正式文書で行ってください。口頭やメールでは内容の重要性がうまく伝わりません。文書で通知を受け取ることで、社員も重大な事実と受け止めます

文書には降格に関する情報を漏れなく記載し、降格の理由を明記しましょう。本人が十分納得できる内容にしてください。

指導や注意するなどの手順を踏む

処分の決定の過程は、指導や注意などの手順も忘れないようにしてください。「勤務態度が悪い」「スキルが不足している」などの理由でも、注意や指導を行うことで改善する場合があります

それらを一切行わず処分した場合、処分に正当性がないと判断される可能性もあるでしょう。

特に能力不足による降格は、労働者にダメージを与えます。退職を考える場合もあるでしょう。結果として退職に追い込んでしまう降格人事は、企業として避けなければなりません。

最後に

降格人事ができる場合や、違法にならずに行うための注意点について紹介してきました。降格人事を行う際には手順を踏み、慎重に検討してください。記事も参考にして、合理的で違法性のない処分を行いましょう。

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