業務を専門化することや分業化することとは真逆の概念として「多能工化」があります。具体的にはどのような意味を指し、どのような業界で求められているのでしょうか。
メリットやデメリット、そして多能工化を推進する手順や成功させるためのポイントについても見ていきましょう。
多能工化の意味や必要とされる業界とは
多能工とは字義通り、「多くの能力を持つ作業員」のことです。では、多能工化とは具体的にはどのようなことを指す言葉でしょうか。
多能工化とは?
多能工化とは、複数のスキルを身につけ、同時に複数の業務を行うことです。多様なスキルを身につけるため、「マルチスキル化」と表現することもあります。
「ここではネジ締めだけ」「ここは検品のみ」という風に分業化することとは対極の概念で、一人の作業員がネジ締めから組み立て、検品、梱包までのすべてを行うこと、あるいは行えるように訓練することが多能工化です。
多能工化が必要とされる業界は?
多能工化は、元々は製造業で用いられていた概念です。一人の作業員が複数のスキルを習得し、複数の機械を使いこなして製品を作り上げていきます。
しかし、一人の従業員が複数のスキルを習得することは、製造業でのみ求められているのではありません。例えばホテルスタッフなどのサービス業の従業員が多能工化すると、利用者はどのスタッフに尋ねてもすぐに対応してもらえるようになり、担当者を探して、たらい回しにされることが減るでしょう。
また、流通業や小売業などでも多能工化は求められています。一人の従業員が複数の業務をこなすことで生産性を高めている企業は少なくありません。
多能工化を推進する3つの手順と成功のポイント
多能工化は段階を経て実現していくことができます。多能工化を推進する手順と、それぞれの段階における成功のためのコツについて見ていきましょう。
1.業務の分類・可視化
業務を分類し、可視化することが多能工化の最初の段階です。例えばホテルなら、玄関でお客さまを迎える仕事やコンシェルジュとしてお客さまのサポートをする仕事、チェックイン・チェックアウトの仕事、各客室からの電話に応対する仕事など、各業務を細かく列挙し、それぞれの業務にどの程度の時間や労力がかかるのか、業務担当者の話も参考にしながら数値で表現していきます。
この段階ではできるだけ客観的に可視化することが必要です。特定の担当者だけに話を聞くのではなく、実際に働いている様子を観察するなどして、業務量を数値化していきます。
2.従業員のスキルマップを作成
次の段階は従業員のスキルマップの作成です。例えばあるホテルスタッフは、玄関でお客さまを迎えつつ、玄関脇にあるコンシェルジュデスク付近にお客さまがいるときは、コンシェルジュとしての仕事もしていたとします。また、英語と中国語に堪能なため、外国からのお客さまの担当もほぼ一人で請け負っていたとしましょう。
各従業員が実際に担当している仕事や能力を克明に調べ、スキルマップに書き込んでいきます。スキルマップを作成することで、業務の偏りや労働量の偏り、能力の偏りなどが具体的に分かるようになるでしょう。
3.育成計画の作成と実施、評価
業務の偏りや労働量の偏りを是正するために、社員ごとに育成計画を作成していきます。今まで担当していなかった業務について指導をしたり、不足すると思われるスキルを学べる機会を設けたりすることで、すべての従業員が多能工として働けるようなサポートが必要です。
育成計画を実施した後には、必ずフィードバックをして定着化しましょう。どの程度多能工化が進んだのか、業務や労働量の偏りが改善されたのかを調べ、育成計画の評価をすることが有効です。
多能工化のメリットとデメリット
多能工化にはメリットもありますが、デメリットもあります。それぞれについて見ていきましょう。
【メリット】業務の平等化とチームワークの強化
多能工化を進めることで、従業員一人ひとりが担当する業務内容と労働量が平等化します。量だけでなく責任についても不公平感がなくなり、より柔軟な組織を作ることが可能になるでしょう。
また、業務ごとの垣根をなくすことで、社員全体に一体感が生まれます。チームワークが強化され、コミュニケーションが活発になることも期待できるでしょう。
【デメリット】育成と評価制度の整備に時間がかかること
多能工を育成することは簡単ではありません。従業員によってもスキル習得までの時間が異なるため、場合によっては何年もの期間がかかることもあるでしょう。
また、業務量を数値化することや、多能工化によってどの程度不公平さが是正されたか評価する制度を作ることにも時間がかかります。従業員がマルチスキル化するための時間も含めると、多能工化を目指してから実現までにはさらに長い年月がかかることになるでしょう。
最後に
多能工化するならば、特定のスキルを持つ従業員が休んでいるときでも、業務へ支障が生じにくくなるものです。評価制度の作成や業務量の数値化には時間がかかりますが、企業としての底力アップのために多能工化を目指してみてはいかがでしょうか。