人材開発支援助成金とは?7つのコースと申請方法について解説

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厚生労働省が実施する人材開発支援助成金とは、社員の職業訓練に対し必要な費用の一部を支給する制度です。労働者のスキルを高め、社内に優秀な人材を育成することを目的としています。

今回は、人材開発支援助成金の概要や手続きの流れなどを紹介します。

目次
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人材開発支援助成金とは?

人材開発支援助成金とは、社員の職業能力開発に取り組んだ場合、使った経費や賃金の一部が支給される制度です。必要な資金を受け取りながら人材育成ができるとして、注目されています。

労働者のキャリア形成が目的

人材開発支援助成金は、慢性的に人手が足りない状況を受け、労働者のキャリアを形成して優秀な人材を育てることを目的としています。人材育成の資金が少ない中小企業を支援し、社内に人材を開発して会社の生産性を高めるために設けられました

キャリアアップ助成金との違い

人材開発支援助成金と同じく厚生労働省が実施する助成金にキャリアアップ助成金があり、従業員のキャリア形成を目的とする点で共通しています。しかし、両者は対象となる従業員が異なり、人材開発支援助成金が雇用保険の被保険者であるすべての労働者を対象にするのに対し、キャリアアップ助成金は非正規労働者が対象です。

キャリアアップ助成金には非正規労働者の正社員転換という目的がありますが、人材開発支援助成金はより広い範囲で人材育成を行い、会社の生産性アップに焦点を当てた制度といえるでしょう。

人材開発支援助成金のコースは7つ

人材開発支援助成金は、かつて「キャリア形成促進助成金」という名称で運用されており、2017年にコースの再編や対象となる訓練の見直しが行われました。現在は7つのコースがあり、それぞれ支給対象や訓練内容、助成の種類は異なります。

コースごとの違い

2022年5月現在のコースは以下の表の通り7つです。


訓練内容

助成の種類

特定訓練コース厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練などの実施や受講をする

・賃金助成

・経費助成

・実施助成

一般訓練コース特定訓練コースの要件に該当しない訓練の実施や受講をする

・賃金助成

・経費助成

教育訓練休暇付与コース有給教育訓練休暇制度もしくは長期教育訓練休暇制度を導入し、その休暇を取得して訓練を受講する

・賃金助成

・経費助成

・導入助成

建設労働者認定訓練コース建設労働者の技能の向上を図るために職業能力開発促進法による認定職業訓練を実施する

・賃金助成

・経費助成

建設労働者技能実習コース建設労働者の技能の向上を図るために自社または登録教習機関などで技能実習を受講する

・賃金助成

・経費助成

障害者職業能力開発コース障害者に対し職業能力開発訓練事業を実施する

・訓練設備の設置

・更新運営費

特別育成訓練コース非正規労働者などを正規雇用労働者などに転換、または処遇を改善することを目的として訓練を実施する

・賃金助成

・経費助成

・実施助成

参考:厚生労働省「人材開発支援助成金

コースや訓練内容などは変更される可能性があるため、導入する場合は厚生労働省のホームページで最新の情報を確認してください。7つのコースのうち、一般的な職業訓練が行われる特定訓練コースと一般訓練コースの内容を見ていきましょう。

(特定訓練コースの内容)

特定訓練コースは、採用5年以内で35歳未満の若年労働者が対象の「若年人材育成訓練」や、雇用保険被保険者すべてが対象の「労働生産性向上訓練」など、全部で7種類のメニューがあります。実訓練時間が10時間以上というように、メニューごとに助成金の支給要件が設けられているのが特徴です。

また、特定訓練コースは「OFF-JT」と「OJT」の両方を対象とします。「OFF-JT」とは職場外での訓練で、集合研修や座学、グループワークなどを行いビジネスの知識を習得するトレーニングです。「OJT」は先輩社員などの指導者がつき、職場内で業務をしながらスキルアップを図るトレーニングで、Off-JTで学んだことをOJTで実践するという形で活用されます。

なお、「助成の種類」のうち賃金助成は1時間あたりの金額で計算され、特定訓練コースであれば1時間に760円です。経費助成は実際にかかった費用の割合になり、同じく特定訓練コースの場合は45%を受け取れます。

この助成額・助成率に該当するのは中小企業の場合です。特定訓練コースは会社の規模を問わず受給できますが、金額は大企業よりも中小企業の方が高く設定されています。

人材開発支援助成金における中小企業の範囲は、次の通りです。

主たる事業

資本金の額出資の総額

常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む)5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他の業種3億円以下300人以下

「資本金の額・出資の総額」と「常時雇用する労働者の数」は、どちらか一方が該当すれば中小企業となります。

(一般訓練コースの内容)

一般訓練コースは特定訓練コース以外の訓練を行います。中小企業だけが申請できるコースです。雇用保険被保険者はすべて支給対象ですが、次の要件に該当しなければなりません。

  • Off-JTの訓練である
  • 実訓練時間が20時間以上
  • 定期的なキャリアコンサルティングの対象時期を就業規則などに規定する

一般訓練コースの賃金助成は1時間当たり760円で、経費助成は30%です。

コース共通の要件

すべてのコースに共通している要件は、次の2つです。

  • 雇用保険適用事業所の事業主
  • 訓練の対象者(障害者職業能力開発コース以外)が、訓練開始時から終了時までの間に「雇用保険の被保険者」となること

7つのコースのうち、「一般訓練コース」と「建設労働者認定訓練コース」は中小企業が対象です。他は会社の規模に関係なくすべての事業主が支給対象になりますが、大企業よりも中小企業の方が助成金が高く設定されています

また、支給には以下のような制限もあるため、確認しておきましょう。

  • 助成対象となる訓練等の受講回数の上限は1人当たり1年度3回まで
  • 1事業所または1事業主団体等が1年度に受給できる助成額は、特定訓練コースを含む場合は1,000万円、一般訓練コースのみの場合は500万円が上限

助成金が増額される生産性要件

人材開発支援助成金には、一定の要件のもとに助成金が増額される制度があります。「生産性要件」と呼ばれるもので、支給申請を行う直近の会計年度で生産性が、3年度前に比べて6%以上伸びていることが要件です。また、金融機関から事業の見通しについ一定の評価を得ている場合は、3年度前に比べて1%以上6%未満伸びていれば要件を満たします。

「生産性要件」を満たしているかどうかは、厚生労働省のホームページに掲載されている「生産性要件算定シート」でも確認できるため、ダウンロードして確認してみるとよいでしょう。要件に該当する場合は、申請により助成金の引き上げができます。

参考:厚生労働省「生産性要件算定シート

人材開発支援助成金を申請する流れ

人材開発支援助成金の申請方法は、基本的に訓練計画の提出→訓練の実施→支給申請の提出という流れです。ただし、コースによって「職業能力開発推進者」の選任やキャリアコンサルタントなどによる面談の実施が必要になるため、よく確認しておきましょう。

実際に申請する流れについて紹介します。

1.訓練計画の提出

人材開発支援助成金の申請は、訓練計画の提出から始まります。その際、特定訓練コースや一般訓練コースなど一部のコースでは、「職業能力開発推進者」を選任しなければなりません。支援の計画や申請、実施を行う役割をする責任者です。採用は、教育や訓練を担当する部署や人事・総務担当の部課長が適任でしょう。

職業能力開発推進者は、計画届の提出前に「事業内職業能力開発計画」の策定を行う必要があります。「事業内職業能力開発計画」は、経営理念に基づく人材育成の基本的方針などを参考に作成してください。

また、特別育成訓練コースのうち一部のメニューではキャリアコンサルタントなどによる面談の実施が要件になっているものもあるため、注意しましょう。

計画書の様式は厚生労働省のページからダウンロードできます。訓練ごとに必要な添付書類があり、そちらも確認して漏れがないようにしておきましょう。提出書類のチェックリストもダウンロードできるため、ぜひ活用してください。

計画は実施の1か月前までに管轄の労働局へ提出します。ただし、特定訓練コースや特別育成訓練コースのうち一部の訓練は「実践型人材養成システム実施計画」を訓練開始日の2カ月前までに提出し、厚生労働大臣の認定を受けなければなりません。

また、以下のコースは例外的に提出期限が異なります。

・建設労働者認定訓練コース

・建設労働者技能実習コース

計画開始の1週間前まで
障害者職業能力開発コース
7/16〜9/15、もしくは1/16〜3/15

提出期限は厳守で、1日でも遅れると支給対象にならないため注意しましょう。ただし、準備に時間がかかる添付書類の場合、事前に申し出ることで訓練開始日の前日までに提出を延期することができます。

参考:厚生労働省「申請様式のダウンロード

2.訓練の実施

計画を提出して認定を受けたら、訓練計画に従い訓練を行います。計画の提出後に研修日程などが変わる場合は、必ず計画変更の申請が必要です。あらかじめ計画が予定通りに進める内容か十分に検討しておいてください。支給申請後に届け出た内容通りの訓練が行われていないと判断された場合、助成金が支給されない場合もあるため注意しましょう。

訓練や制度の整備などに必要な費用は、一旦すべて事業主が負担します。経費が助成されるコースを利用する場合、経費にかかった見積書や納品書などは残しておくことが大切です。

3.支給申請の提出

訓練が終了したら、支給申請を行います。申請できるのは訓練終了日から起算して2ヶ月以内です。提出が1日でも遅れると支給されないため、早めに提出するようにしましょう。

申請に必要な書類はコースによって異なるため、十分注意してください。複数の書類が必要になり、漏れや不備が多くなりがちです。提出期限に遅れないよう、余裕をもって書類の準備に取りかからなければなりません。

支給申請後、審査により申請内容が認定されれば、助成金が支給されます。審査の期間中は、労働局から事業所への調査や電話による問い合わせがあることも少なくありません。これに協力をしない場合、支給されないことになるため注意しましょう。支給申請から審査を経て助成金が支給されるまでの期間は、約4~6ヶ月ほどです。

人材開発支援助成金を利用する2つのメリット

人材開発支援助成金の利用には、メリット・デメリットがあります。まずはどのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。

1.人材育成の費用負担が減る

人材開発支援助成金の大きなメリットは、人材育成の費用負担が軽減されることです。これまで人材育成のための資金が不足して優秀な人材が確保できなかった会社でも、助成金の利用で負担なく社員のスキルアップが図れます。スキルが伸びることで会社の生産性が高まり、事業の成長が期待できるでしょう

2.キャリアアップへの意識が高まる

キャリア形成が図れることで、社員の向上心も高まります。教育や訓練がまったく行われない職場環境では、働く意欲も低くなるでしょう。携わる仕事の範囲が限られることで、仕事へのモチベーションも感じられなくなります。

人材開発支援助成金で訓練が積極的に行われれば、能力や技術が向上するだけでなく、さらにキャリアアップすることへの意識が高まるでしょう。社員のスキルやモチベーションの向上は業績に反映され、事業の拡大や新規事業の展開などにもつながっていきます。

人材開発支援助成金を利用する2つのデメリット

メリットが大きい助成金ですが、デメリットな側面もあります。申請に際しては、デメリットも把握しておきましょう。

1.申請手続きが煩雑

人材開発支援助成金は申請に際して多くの書類が必要で、準備に時間がかかります。訓練や制度を導入する前の計画提出と訓練実施後の支給申請という2回の手続きをしなければならず、添付書類の準備も煩雑です。

時間と手間がかかり、忙しい事業主には負担も大きくなります。助成金の申請に慣れていない場合、書類の準備に時間が取られ、期限に間に合わない可能性もあるでしょう。助成金を受給するには、それなりの手間がかかるということを認識しておいてください。

2.支給申請から受給までに時間がかかる

助成金を受給するまでには、長くて6ヶ月ほどの時間がかかります。結果的に助成金を受け取れても、それまでは訓練の費用を立て替えなければなりません

人材育成の資金が不足している会社にとっては、この一時的な負担も厳しいという側面があるでしょう。立て替えるだけの余裕が会社にあるのかも検討しておく必要があります。

人材開発支援助成金を申請する際の注意点

人材開発支援助成金を申請では、助成金に税金はかかるのかなど気になる点もあります。ここでは、助成金の申請に際し注意しておきたいことを見ていきましょう。

助成金にかかる税金

国から受け取る助成金は会社の収入になり、法人税や所得税の課税対象になります。仕訳の勘定科目は「雑収入」です。

助成金が実際に支給されるまでには数ヶ月など時間がかかるため、助成金の支給決定通知を受理したら、いったん「未収入金」の勘定科目で処理しましょう。入金されたら未収入金の消しこみを行います。

キャリアアップ助成金との併用

厚生労働省は人材開発支援助成金のほかにキャリアアップ助成金も実施しており、要件を満たせば併用が可能です。人材開発支援助成金の職業訓練を行って非正規労働者を正規社員に登用した場合、キャリアアップ助成金の受給要件も満たすことになります。

キャリアアップ助成金にも計画の作成や提出などの要件や申請の期限などがあるため、併用したい場合には事前によく確認しておきましょう。

申請対象者が退職した場合

支給申請までに申請対象者が会社都合で退職した場合、申請を行うことができません。しかし、本人都合の退職や、実訓練時間の8割以上を受講しているといった要件を満たしている場合は受給できます。申請の可否が不明な場合は、労働局に問い合わせてみるとよいでしょう。

最後に

人材開発支援助成金は、従業員の人材育成を促進する制度です。職業訓練の経費や賃金の一部補助などが受けられます。職業訓練など積極的に教育を行うことで社員のモチベーションが上がり、生産性も高まるでしょう。生産性の要件をクリアすれば、助成金の額もアップします。社内に優秀な人材を育てたいと考えている経営者の方は、記事も参考に、ぜひ人材開発支援助成金の利用を検討してみてください。

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