退職証明書とは会社を退職した事実と、在籍していたときの業務内容などを証明する書類です。元従業員から退職証明書の発行を求められた場合、退職証明書の発行について義務があるかどうか迷うこともあるでしょう。
本記事では、退職証明書の発行を依頼されるケースや作成方法などについて紹介します。
退職証明書とは
退職証明書とは、会社を退職していることを証明し、またはその会社に在籍していたことを証明する書類です。まずはそれがどのような場面で発行するものなのか見ていきましょう。
退職者からの依頼で発行する書類
退職証明書は退職者から要求があれば必ず発行しなければなりません。合意退職、解雇、その他理由を問わず、すべての退職を含みます。雇用形態を問わず、アルバイトやパート、契約社員でも依頼があれば発行が必要です。
派遣社員の場合は雇用主である派遣元に請求します。派遣先の会社は退職証明書を発行できません。
会社によっては、退職者全員に渡している場合もあります。しかし、請求がなければ必ずしも作成する必要はなく、退職と同時に発行しなくても特に問題はありません。
離職票との違い
退職時に発行する書類には退職証明書の他に離職票がありますが、違いがよくわからない人もいるでしょう。離職票は、退職者の在籍していた会社が公共職業安定所に離職証明書を提出した際に交付される書類の一部です。退職理由や過去半年間の賃金などの情報が記載されています。
退職証明書との大きな違いは発行元です。こちらは企業が発行する私文書ですが、離職票は国が発行する公文書になります。退職証明書は書き方や書式に指定はなく、フォーマットは自由です。一方、離職票は公文書のため、書式は統一されています。
元従業員から離職票を求められた場合、または元従業員が59歳以上の場合、会社は公共職業安定所に離職証明書を提出しなければなりません。3枚複写式の書類で、そのうち1枚が離職票です。会社は公共職業安定所から離職票を受け取り、必要事項を記入して元従業員に送付します。
なお離職証明書の提出は社員が退職した翌日から10日以内と決められているため、急いで対応しましょう。元従業員が失業保険を受給できるかどうかに影響するため、速やかに対応できなかった場合は雇用保険法により罰則が課せられる場合もあります。
退職証明書を依頼されるケース
会社は退職者から退職証明書を請求された場合、それがどのように利用されたのかを知ることはできません。使い方は退職者に委ねられています。主に証明書を依頼されるケースは、大きく分けて次の2つです。
1.転職先から提出を求められた
退職者が転職先の企業から退職証明書の提出を求められる場合があります。履歴書や職務経歴書の記載内容や退職理由を確認するためです。応募者本人が提出する書類は本人の申告に過ぎず、内容を裏付けるものはありません。
離職票を発行している場合に代用できる可能性もありますが、代用できるかは転職先の判断に委ねられます。転職先が確認したいのが勤務期間や退職理由などであれば、離職票でも確認できるでしょう。
しかし、業種の種類や役職は退職証明書でないと判断できません。発行を求められた場合は、必ず発行しましょう。
2.離職票の代わりに使いたい
健康保険や年金の加入手続き、公共職業安定所で失業給付の手続きを行うために退職証明書を依頼される場合もあります。これらの手続きは通常、離職票があれば行えますが、離職票の発行手続きには一定の時間がかかります。
離職票の代わりに退職証明書でも手続きができるため、退職者がすぐに手続きをしたいという場合は発行を請求されることもあるでしょう。
退職証明書の作成方法
ここでは退職証明書の作成方法について、記載事項を中心に説明します。
記載事項は6つ
退職証明書は特にフォーマットも定型化していないため、書き方は自由です。しかし、基本情報以外の5つについては法で必ず記載すべき項目になっているため注意してください。
基本情報
退職者の氏名や発行年月日、発行した企業についての情報を書き入れます。事業所情報の横に社印などを押して企業が発行したものであること示しておきましょう。
退職年月日も記入しますが、給与を計算する都合などから、月末の期日にする会社も多いかもしれません。しかし、退職者が退職前から転職活動を始めて退社後すぐに転職する場合には、転職先の雇用契約開始日と退職年月日が重複してしまう可能性があります。雇用期間が重複している期間があると社会保険上の手続きも複雑になるため、正しい退社日を記入しましょう。
業務の種類
退職者が担当していた仕事内容を記載する項目で、法定事項です。「事務職」「営業職」などを書き入れます。前職での経験を活かして転職する場合などに重要な項目です。退職者が従事していた業務の種類が多岐にわたる場合は、会社の判断で記載しましょう。
その事業における地位
「〇〇部長」「△△課長」など、退職する時点での最終的な役職を記載します。退職者が管理職の経歴を転職に活かす場合などに必要な項目です。
使用期間
退職者が在籍していた期間を記載します。2002年4月1日〜2020年3月31日のように、できるだけ具体的に書き入れましょう。会社によっては、入社後すぐの試用期間を使用期間に含めるかどうか異なる対応をしています。迷った場合は、上司に確認してから記入してください。
賃金
退職時の基本給や手当金額などを記載する項目です。退職証明書は離職票の代わりに失業給付の申請手続きに使用することがあるため、離職票と同じく税金などを天引きする前の金額に残業代や交通費を加えた金額を記載します。この金額を基準に基本手当が決まるため、正確に記載しなければなりません。
退職の事由
退職の理由を書き入れる項目で、内容の記載には配慮が必要です。転職理由が本人にとって不都合ではない場合は、そのまま記載して問題ありません。退職者が自己都合で退職した場合、通常は「自己都合」と書き、その退職事由については詳しく記載しません。
退職の事由が解雇の場合、解雇するに至った理由について、退職者から請求があった際には詳しく記載する必要があります。解雇理由が就業規則に掲載され、その理由に該当すると判断した事実関係についても記載しなければなりません。
問題なのは、早期退職など会社からの退職勧奨に応じた場合です。
このようなケースでは、通常離職票では雇用保険の受給を有利にするため「会社都合」と記載されます。しかし、再就職先に提出する退職証明書の場合、会社都合では何か本人に問題があったのかと疑われることもあるでしょう。このような場合は「会社都合」とせず、曖昧な表現にするのも一つの方法です。
退職事由の記入例
退職事由の記入例について一般的な記入例を紹介します。
- 退職者の個人的な理由により退職した場合:「自己都合による退職」
- 会社が退職を促したことにより退職した場合:「当社の勧奨による退職」
- 定年年齢を迎えたことにより退職した場合:「定年による退職」
- 雇用契約期間が終了したことにより退職した場合:「契約期間の満了による退職」
- 上記以外の理由により退職した場合:「その他(具体的には〜による)」
- 解雇による場合:「解雇(具体的には〜による)」
テンプレートをダウンロードできる
退職証明書は退職者から依頼があった場合にはいつでも対応できるよう、エクセルなどにフォーマットを用意しておくと便利です。
インターネットなどで無料ダウンロードできるテンプレートなら、必要項目を入力すればすぐに作成できるので便利です。使いやすいものを探して利用してみるとよいでしょう。
退職証明書を発行するときの注意点
退職証明書の発行には注意事項があります。場合によってはトラブルの原因にもなるため、しっかり確認しておきましょう。
発行は法的義務がある
退職証明書は元従業員が依頼した場合には発行する法的義務があります。労働基準法22条に定められており、退職者が請求した場合には、交付の発行を拒絶することはできません。「遅滞なく交付する」とされているため、理由もなく遅れて交付することは労働基準法違反になります。罰金が科される規定もあるため注意してください。
発行には特に期日は設けられていませんが、当日か、遅くても1〜2週間以内に行いましょう。それ以上かかると違法になる恐れがあります。繁忙期に請求があった場合は、遅れる旨を伝えるとよいでしょう。
ただし、退職証明書の発行義務には時効が設けられています。退職から2年以上が経過している場合に発行義務はなく、依頼があっても拒否することが可能です。
なお、在職証明書が請求される場合もありますが、これは元従業員がその会社に在籍していたことを証明する書類です。退職証明書とほぼ同じ内容を証明しており、名称が違うだけでほぼ同じように扱われています。ただし、在職証明書は法的な発行義務はありません。
解雇した元従業員からは解雇理由証明書を請求される場合もあります。失業保険の受給や不当解雇を争う場合などに必要になる書類です。こちらも発行義務のある書類ではありません。
退職者が希望しない事項は記入できない
前の項目で説明したように、退職証明書には法で記入が義務づけられた記載事項があります。しかし、元従業員が希望しない事項の記載はできません。
退職事由に関しては希望しない場合もあるでしょう。特に解雇の場合は理由の記載を望まない退職者もいるかと思います。
証明書の請求を受けたら、元従業員にあらかじめ記載する内容について確認しておくとよいでしょう。余計なことを記載してしまうとトラブルにもなりかねません。受け取った元従業員は必ずしも内容を確認するとは限らず、そのまま提出してしまう可能性もあります。
また、証明書に記載できる事項以外の情報は記載しないようにしてください。転職活動や再就職を妨げる目的で元従業員の国籍や信条、社会的身分、労働組合活動などの情報を記載することは法律で禁止されています。
発行回数に制限はない
退職証明書の発行回数に制限はありません。紛失した場合にも退職から2年以内であれば請求できます。元従業員から依頼があれば拒否することはできません。「退職してから半年後、1年後に請求してきた」「同じ人が何回も請求してくる」という場合でも依頼があれば対応します。
請求できるのは退職後です。退職予定の社員から請求があっても、遅滞なく発行する義務はありません。
最後に
退職証明書は会社から発行する義務はありませんが、退職者から請求があれば速やかに発行しなければなりません。すぐに作成できるよう、テンプレートをダウンロードしておくとよいでしょう。退職事由の記載には配慮し、退職者からの希望があれば法定の記載事項でも記載してはいけません。この記事を参考に、トラブルなく退職証明書を発行しましょう。