ベンチャー企業とは新しいアイディアや技術によって、斬新なビジネスモデルを展開している企業を表す言葉です。国内のデジタル化、IT化の潮流の中で注目を集める存在になっています。ベンチャー企業の特徴や現状を解説し、さらに具体的な事例を紹介しましょう。
ベンチャー企業の定義と歴史
ベンチャー企業とはどんな組織のことを表すのか、最初に定義を説明します。またいつから存在しているのか、歴史も解説しましょう。
明確な定義はないが新しいビジネスの担い手
ベンチャー企業には明確な定義は存在していません。一般的には、これまでにはない「新しさ」と「成長に対する強い意欲」を持っていること、新しいビジネスモデルを展開する新興の企業というイメージがあります。
ベンチャー企業の「ベンチャー(venture)」には英語で「冒険」「投機」といった意味。
安定を目指すのではなく、大きな成長を目指す野心的な企業というニュアンスの強い言葉といっていいでしょう。このベンチャー企業という言葉は和製英語であり、欧米では使われていないので、注意が必要です。
1970年代からあったベンチャー企業
「ベンチャー企業」という語句はデジタル化やIT化が進んだ90年代くらいから登場したのではないかと思われるかもしれません。しかし、この言葉が最初に使われたのは1970年代初頭です。
「ベンチャービジネス」という言葉が初めて使われたのは、1970年5月に開催された「ボストン・カレッジ・マネジメントセミナー」に参加した中小企業庁担当者の報告書の中でした。
その時からベンチャー企業は日本の新しい産業の担い手として期待されたのです。
ベンチャー企業の特徴とは?
ベンチャー企業は、これまで変革の時代に注目を集めてきました。ニューノーマルの時代と呼ばれている大転換期の現在も官民から熱い注目を浴びています。
ベンチャー企業とは具体的にどのような特徴を持った組織なのか解説しましょう。
新しいビジネスモデルを展開
ベンチャー企業の大きな特徴となっているのは「新しさ」。過去にあるビジネスモデルをマネするのではなく、現在の日本にはない産業を新たに創造するところがポイントです。
新しい商品やサービスの開発と提供、新しい提供方法の提示など、ゼロから創造する要素を備えている点が大きな特徴になっています。
常に成長過程にある
ベンチャー企業に共通しているのは明確な成長戦略と将来的なビジョンを持っていることでしょう。「会社を大きくしたい」という目標はほとんどの企業が掲げていると思われます。
しかしベンチャー企業では特に成長する経営戦略や攻めの姿勢が際立っているのです。
人材面、資金面など、様々な点で大きく成長する余地があり、大きな目標を掲げているケースが目立っています。常に成長過程にあるということは「挑戦者」としての意識を持っているということでもあるでしょう。
投資機関から援助を受けるケースが多い
アイディアや技術を持っているけれど、資金力が十分ではないというベンチャー企業は少なくありません。新規事業を展開するうえで大きなサポートの役割を果たすのが投資機関です。
ベンチャー企業の多くはベンチャーキャピタルやファンドからの資金提供によって、会社の運営や開発を行っています。
ベンチャーキャピタルやファンドはベンチャーの株を取得し、ベンチャー企業が成長して株価が上昇したのちにその株を売却することで収益を得るのです。
成長への環境が整っておらず、不安定な面も
ベンチャー企業は成長過程にあるため、経営基盤が安定していないうケースが多いといえます。「冒険」には「リスク」がつきものです。
企業として完成していないからこそのおもしろさという醍醐味と、不安定であることは表裏一体の関係にあるといえるでしょう。
混同されやすい企業との違いを徹底解説
ベンチャー企業は定義が明確でない分だけ、他の組織との違いがよくわからないというケースも出てくるでしょう。ここではベンチャー企業と混同されがちな組織との違いを解説します。
ベンチャー企業とスタートアップの違い
ベンチャー企業ともっとも混同されることの多い組織がスタートアップでしょう。確かにこの2つの言葉には共通点がたくさんあります。ベンチャー企業は和製英語ですが、スタートアップ(startup)は欧米で一般に知られている新しい組織を表す概念です。
スタートアップは社会の未解決課題の克服、社会変革への寄与などの目的を持ちながら、ビジネスとして成立させることを目指した新しい企業と定義づけることができます。
つまりこの2つの名称は重なる部分がたくさんあるのです。ベンチャー企業は和製英語であり欧米では該当する言葉がないため、欧米ではベンチャー企業を「スタートアップ」と訳すケースも少なくありません。
日本でもこの2つの言葉を同じようなニュアンスで使うこともあります。しかしこの両者には長期的なタームを意識したものか、短期的なタームを意識したものかという違いがあるのです。
ベンチャー企業が将来的な展望も含めた企業戦略を持っているのに対して、スタートアップは立ち上げること、短期的なスタートの時期にフォーカスした名称であるという相違があります。
最初にスタートアップとして起業しし、数年後に軌道に乗って、ベンチャー企業と呼ばれるケースもあるでしょう。
ベンチャー企業と中小企業の違い
ベンチャー企業=中小企業という認識を持っている方もいるかもしれません。確かにベンチャー企業は始まりの時点では小さな会社であることが多いでしょう。しかしベンチャー企業を特徴づけているのは革新性や成長性といえます。
一方、中小企業は規模によって定義された組織です。中小企業は中小企業庁のホームページでも明確な定義が掲載されています。
業種によって数字は違いますが、例えば製造業ならば、「資本金や出資の総額が3億円以下」「従業員の数が300人以下」という規定があるのです。
ベンチャー企業とベンチャーキャピタルの違い
ベンチャー企業とベンチャーキャピタルはともにベンチャー(venture)という言葉が使われていることから、混同されることの多い組織です。
しかしこの二つは真逆の関係にあるといっていいでしょう。ベンチャー企業は資金提供される側、ベンチャーキャピタルは新たに起業するに資金を提供する側です。
英語のキャピタル(capital)という言葉には「資産」「資本」などの意味があります。
欧米では「ベンチャー」という言葉を使う場合は、ベンチャーキャピタルを指しているのです。
ベンチャー企業と社内ベンチャーの違い
ベンチャー企業と社内ベンチャーの違いは、独立した会社組織であるか会社内の組織であるかという点です。社内ベンチャーは企業がこれまで未開拓だった分野で新規事業を立ち上げるために、社内に設置したプロジェクトチームということになります。
社内ベンチャーはあくまでも企業内の部署の1つなのですが、「ベンチャー」という言葉を使うことによって、所属するメンバーに対して、「革新性」「独自性」「独立性」をうながす効果も期待できるでしょう。
日本のベンチャー企業例
ここからは、日本のベンチャーを代表する企業と注目を集めている企業の事例を3つ紹介しましょう。
1.代表的ITベンチャー「サイバーエージェント」
もはやベンチャーという言葉がふさわしくないのではないかと思われるほど、大きな会社となったITベンチャーが「サイバーエージェント」です。通常のベンチャー企業と区別して、「メガベンチャー」と呼ばれることもあります。
創業はインターネット黎明期の1998年。「21世紀を代表する会社を創る」という目標を掲げて、インターネット広告、メディアを軸にした事業を展開しています。
ベンチャー企業への支援・サポートを積極的に行っている点も特徴的です。
2.AIベンチャー「プリファード・ネットワークス」
2014年に設立し、2020年10月の時点で推定時価総額3,572億円に達しているのがAIベンチャーの「プリファード・ネットワークス」です。
取り組んでいる事業は工業関連ロボットや生活関連ロボットの開発、医療分野でのオミックス解析・医用画像解析・化合物解析、自動運転やコネクテッドカーの物体認識技術や車両情報解析のシステム開発など、多岐にわたっています。
AIを用いた驚異的な開発力を武器にして新しいビジネスを創出している会社なのです。
「現実世界を計算可能にする」という壮大なテーマを掲げており、未知の領域にチャレンジしていく姿勢は様々なベンチャー企業の中でも際立っています。
3.新素材「LIMEX」を開発する「TBM」
紙やプラスチックに代わる新素材として注目を集めている「LIMEX(ライメックス)」を開発しているのが、新素材ベンチャー企業「TBM」です。
石油ではなくて、石灰石という環境保全に役立つ原材料が使われているところが「LIMEX(ライメックス)」の大きな強みになっています。環境保全と素材革命とを実現している企業なのです。
海洋汚染のマイクロプラスチック問題など、環境に関する様々な問題解消への第一歩につながるのではないかと世界からの期待も集まっており、近年急成長をとげています。
2019年度におけるニッポン新事業創出大賞のグローバル部門において最優秀賞を受賞しました。
ベンチャー企業にまつわる近年の動向
日本のベンチャー企業の近年の動向がどうなっているのか、その傾向を解説しましょう。
経済産業省や自治体による支援が増加
近年、国、経済産業省、地方自治体などによるベンチャー企業への支援の動きが目立ってきています。産業の活性化、雇用創出、地域再生などの様々な課題の解決の担い手として、ベンチャー企業への期待が集まっているからです。
医療・衛生・ヘルスケア・環境保全・次世代エネルギーなど、様々な分野でベンチャー企業が新規事業を開拓しつつあります。
しかし資金不足、人材不足を始めとして、様々な課題・問題もたくさんあるのが現状です。そうした課題・問題の解消と円滑な新規事業の展開を支援するために、様々な支援策、仕組みが作られています。
経済産業省の施策として実施されているのは「企業によるベンチャー投資促進税制」「ベンチャー企業に対する個人投資家の投資への税制上の優遇措置」「起業家人材育成事業」などです。
また、行政が間に入り、ベンチャー企業と大企業をマッチングする動きもでてきています。
大企業との協業が活発化
ベンチャー企業と大企業との協業が活発化していることも近年の大きな特徴となっています。特許庁を始めとする国によるマッチング支援の他に、民間のマッチングプラットフォームの動きも活発化しており、ベンチャー企業と大企業との協業が日本経済に活力を与えることが期待されているのです。
ベンチャー企業の持っている技術・開発力・ノウハウと大企業の持っている事業資産、販路などを互いに有効に活用することによって、新たなビジネスの創出の可能性が大きく広がっているといえるでしょう。
最後に
ベンチャー企業が登場したのは1970年であり、この50年間、ベンチャー企業は日本経済の新しい担い手として期待され続けてきたことになります。
これまでの50年間と比較すると、日本の社会構造、経済構造の変化のスピードは早くなっているといっていいでしょう。
つまり、ベンチャー企業が活躍できる場所はさらに広がっているのです。近年は、新たなビジネス創出の起爆剤であるだけでなく、様々な社会の課題の克服・解消という観点からも、より大きな役割を果たすことを求められています。