「債権回収」とはそもそもどのようなことを指す言葉なのでしょうか。債権回収が必要なときやうまく行かないときにすべきことについて解説します。ぜひ参考にしてください。
債権回収とは
債権回収とは、簡単に言えば、貸したものを返してもらうことです。例えば金銭の貸し借りがあるとしましょう。お金を借りた側(=債務者)がお金を返さない場合、お金を貸した側(=債権者)は返済するように要求し、債務者から返済を受けます。
債権とは何か
債務者に特定のものや行為を請求できる権利が「債権」です。お金を貸しているならば、貸した相手に「〇円と利息を〇日までに返済してくれ」と請求する権利を債権者は持ちます。
反対に、債権者に特定のものを渡したり行為を行ったりする義務が「債務」です。債務者がお金を借りているなら、債権者に借りたお金や利息を支払わなくてはいけません。
債権回収が必要になるとき
約束した日までに貸したお金を返済してもらえていないとしましょう。このような場合は、貸した人は債権回収を行います。また、商品を納入したのに代金を受け取れていないとき、貸したものが約束の期日までに返ってこないときも、債権回収を行い、今後の経営や他の取引先との関係に悪影響が及ばないようにすることができるでしょう。
債権回収に入る前の注意点
債権回収に入ることが決定したら、交渉前に確認すべきことを改めてチェックすると良いでしょう。内容によって、交渉後の確認では不利になるケースがあります。十分な注意が必要です。
再度確認すべきこと
債権回収に入る前に確認すべき事項は次の3つになります。
1.債務内容の整理
2.契約書内容の確認
3.債務者の認識を確認
まず初めに確認すべきことは、「債務内容の整理」です。次の内容について再度整理しましょう。
・債権額
・支払期限
・付帯条件の有無
・担保や保証について
あなたが認識している債権の金額や支払期限に間違いがなく、付帯条件であなたが不利になるような記載がないか再度確認しましょう。
次に確認すべきことは、「契約書内容の確認」です。特に注意して確認すべきは次の内容になります。
・期限の利益喪失条項の有無
・連帯保証人の有無
・管轄裁判所に関する記載の有無
「期限の利益喪失条項」がある場合、債務者の返済能力に不安が生じていることを条件に、債権の返済期限より前であっても債務の履行を請求することができます。つまり期限を待たずに早めに債権回収できるということです。
「連帯保証人」の記載がある場合、債務者からの債権回収が困難と判断した段階で、債権の回収先を連帯保証人へ変更することになります。
「管轄裁判所」に関する記載があり、その裁判所があなたの所在地から遠い場合は裁判費用がかさむ可能性があり注意が必要です。ただし最近は全国の地方裁判所本庁でウェブ会議等のITツールの活用が始まっていますので、遠方であることのリスクは以前より軽減されています。
最後に確認すべきことは、「債務者の認識を確認」です。債務者が自らの原因で債権支払いを遅らせている、という認識がなければ回収交渉に入る以前の問題になります。何らかの要因で債権に対する認識に相違が有る場合は、まずこれを正すことから始める必要があります。
債権回収の時効について
債権回収の時効期間が変更になったことをご存知でしょうか。2020年4月に債権法が改正され消滅時効(債権者が一定期間権利を行使しないことによって債権が消滅するという制度)の期間が変更になっています。(参考:民法(債権法)改正パンフレット、法務省)
具体的には、商品の売掛代金は2年、弁護士の報酬は2年、医師の診療報酬は3年、飲食代金は1年、動産のレンタル代金は1年などと職業別に定められていた短期消滅時効の特例が廃止され、消滅時効期間は原則として一律5年となりました。
ただし、債権者自身が権利を行使することを知らないような債権(債権者に返済金を過払したため過払金の返還を求める債権など)については、権利を行使することができる時から10年が消滅時効期間となっています。
また民法改正には次の4つケースにおいて時効が更新されることが明記されています。
1.裁判所に訴状を提出する(改正民法147条1項1号)
2.裁判所に支払督促の手続きをする(改正民法147条1項2号)
3.裁判所に民事調停を申し立てる(改正民法147条1項3号)
4.破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加(改正民法147条1項4号)
消滅時効の期限である5年が近づき、その時点で解決の目処が立っていない場合は更新処置を検討した方が良いかも知れません。
債権回収の方法
お金やものを貸したのに返済期日までに返ってこないと、 多大な損失を被ることがあります。例えば、返済されたお金で新たに商品を買い、売却して利益を得ようと計画していても、返済期日までにお金が返ってこないなら、資金繰りに苦労することになるでしょう。
とはいえ、債権者が債権を主張しても、約束の期日までに貸したものやお金、納品した商品の代金が返ってこないことがあるかもしれません。そのような場合には、次の3つの方法で債権回収をしましょう。
弁護士の利用
債務者への返済要求を法人や個人で実行せず、弁護士を利用し交渉の代行をお願いする方法があります。弁護士を利用すると債権者が債務者へ直接お願いする場合と比較し、次の3つのメリットを期待できます。
1.弁護士が直接連絡、面談し心理的プレッシャーを与えることで支払いが進展する
2.債務者も弁護士に依頼し弁護士同士の話し合いになることで解決へ向け進展する
3.裁判所への訴訟までを想定した戦略をたてることで債権回収の確率が高まる
メリットが多い弁護士の利用ですが、お願いする場合に忘れてはならないのが弁護士費用の問題です。一般的に債務者と交渉する場合と裁判所で訴訟する場合のそれぞれに着手金と報酬金が必要になります。
着手金は15万〜30万円程度、報酬金は回収額の5〜15%程度が必要になるようです。弁護士の利用は回収したい債権額も考慮して判断すると良いでしょう。
裁判所の利用
取引先に直接請求しても債権を回収できないときは、裁判所を通して「民事調停」を行うことができます。民事調停とは裁判所で債権者と債務者が話し合う機会を設け、和解を目指す方法です。
和解が成立すれば、和解の内容に応じて債権を回収します。万が一、和解の内容通りに債務者が返済を行わない場合は、裁判所に「強制執行」を請求して、債務者の預金等から債権を強制的に回収することも可能です。
民事調停は手続きが非公開のため、第三者には調停の内容を知られにくく、なおかつ訴訟よりも費用が少なく、手続きが簡単というメリットがあります。しかし、債務者が裁判所に来ない時などには調停を進めることができないため、和解しづらいという点はデメリットです。
裁判所に出かけずに書類だけで債権回収を進めていきたい場合には、「支払督促」を利用することもできるでしょう。支払督促は裁判所が債務者に督促状を送る手続きのことで、債務者が異議申立てをしない場合は債権回収の強制執行に進むことが可能です。債務者が異議申立てをした場合には訴訟へと発展します。
60万円以下の少額の債権に関しては「少額訴訟」、60万円を超える債権等に関しては「通常訴訟」に進む可能性もあるかもしれません。このように裁判所を利用した債権回収方法は種類が多いので、状況に合わせて使い分けることができるでしょう。
債権回収会社の利用
債権回収会社とは、その名の通り、債権回収を専門に行う会社です。債権回収会社による債権回収の方法は大きく2つに分けることができます。
1つは、債権者から債権の回収だけを委託される方法です。この場合は債権自体は債権者に帰属し、債権回収会社は回収した債権から手数料を差し引いたものを債権者に渡します。
2つ目は、債権者から債権自体を譲渡される方法です。この場合は債権は債権回収会社に帰属し、債権回収会社は債権の評価額を債権者に渡します。
債権者と債務者間で解決する手段(任意交渉)
紹介したように、裁判所や債権回収会社を利用して、債権に関わる問題を解決することもできます。しかし、シンプルな解決を目指すなら、裁判所や債権回収会社に依頼する前に債務者・債権者の当事者間で解決することも検討してみましょう。
債権債務を相殺する
同額の債権をお互いに発生させることで、債権と債務を相殺することも可能です。例えばA社からB社に原料を300万円分納入すると、B社は300万円の支払い義務を持つことになります。
しかし、A社がB社から300万円分の商品を購入することがあらかじめわかっているなら、お互いの債務・債権で相殺することができ、現金の貸し借りを省くことができるでしょう。
債権譲渡で回収
債権は財産のひとつのため、債権者が法人の場合に限り、現金の代わりに譲渡することができます。例えばA社がB社から300万円の貸付金を回収できない場合、B社が300万円分の価値のある債権を有しているならば、その債権を貸付金の代わりに受け取ることも可能です。
なお、債権譲渡をする場合には、債権者が変わったことを示すために「債権譲渡登記」を行います。登記の際には登録免許税の納付が必要になることもあるので、債権譲渡登記所や管轄の登記所で相談してみましょう。
代物弁済の財産給付で解消
債権者の承諾を得られる場合は、債務者は本来返済すべきものとは別のものを渡すことで債務を解消することが可能です。このように別のもので債権回収を行うことを「代物弁済」と呼びます。
例えばA社がB社に300万円分の商品を納入したのに代金を回収できていない場合、B社はA社の承諾を受けたうえで、お金の代わりに不動産や美術品などの「代物」を提供し、債務を解消することができるでしょう。
なお、代物弁済として提供するものは、本来の債務と同じ価値がなくても問題ありません。債務者が代物として提供したものを債権者が承諾するならば、債務よりも多額あるいは少額の価値のものであっても代物となり得ます。
ただし、代物が本来の債権よりもあまりにも低価値の場合には、代物を債権の一部を消滅させるために使用し、債権の残りの部分に関しては現金や他の代物で返済するというような契約を結ぶことも可能です。
債権者代位権を利用して差押え
債権者代位権とは、債権者が債務者の保有する財産や債権を代わりに行使する権利のことです。債権者代位権は、次のすべての条件が満たされた場合に行使して、強制執行につなげることが可能になります。
- 金銭の債権の場合は、債務者が無資力であること
- 債権者代位権の対象となる債権を、債務者が行使していないこと
- 債権を弁済する期間が過ぎているにも関わらず、債務者が返済していないこと
- 債権者代位権の対象となる債権が、他人に譲渡できる債権であること
債権者代位権を債権者が行使すると、債権者が複数いる場合でも優先的に債務者から弁済を受けることができます。また、債務者は債権者の代位権を妨げることができず、債権者代位権を行使する際に生じた費用も債務者が支払わなくてはなりません。
任意交渉が期待できる場合と注意点
今までお互いに取引しお世話になっていた債務者との債権トラブル、できることならば裁判所や債権回収会社を使わずに話し合いの交渉で解決したい、このように思うのが債権者の本音ではないでしょうか。
ただし債務者が債権の返済に苦しみ切羽詰まった状況にある場合、債権者であるあなたを落とし入れ債権から逃れたいと考えている可能性はゼロではないでしょう。債務者との任意交渉を開始する前に確認すること、そして注意点について紹介します。
任意交渉する前に確認すること
債務者との任意交渉を開始する前に必ず確認してほしいことは次の2つです。
1.債権の返済が遅れている理由が一時的な資金不足であること
2.不動産や動産などで金銭に換えることが可能な財産を保有していること
今までの取引きでつい人情に流される気持ちはわかりますが、債権の返済が遅れている事実を直視し、遅れの理由と返済の目処があるかについて、必ず調査を実施しましょう。
もし債務者に債権を返済するあてがないのなら、任意交渉をすべきではありません。その場合は自ら債務者と交渉しようとはせず、弁護士や債権回収会社など交渉のプロへ依頼した方が無難です。費用はかかりますが、自ら交渉するより債権を回収できる確率が高まるでしょう。
任意交渉する場合の注意点
債務者の返済遅れの理由が一時的な資金不足であり、万が一に備えた換価可能な財産がある場合、任意交渉を進めることになります。交渉の中で債務者が支払い方法について相談してきた時には注意が必要です。
単に債権の支払い期日が遅れるだけであり、約束されている債権額の通りに返済するのであれば問題はありません。ただし、分割払いの相談をしてきた時には注意が必要です。分割払いにすることで本当に債権を完済できるのか、次の3つを確認しましょう。
1.今後の入金見込みなど資金状況について確認する
2.本当に支払いの意思があるのかを確認する
3.支払回数や金額、期限について合意書を取り交わす
分割払いを申し入れてきた債務者にまず確認すべきことは、今後の入金見込みです。単に返済に充てる資金が不足し、引き伸ばすための分割払いであれば、申し入れを断るべきでしょう。
債務者に返済の意志が本当にあるのかを確認することはとても重要です。もともと返済の意志がない場合、時間稼ぎのために分割を申し入れている可能性があります。このような懸念があれば、まずは初回の入金をしてもらい返済の意志があることを確認しましょう。債務者を疑うことは心苦しいかも知れませんが、後々のトラブル防止のためには必要なことです。
いくら分割といっても期間が長くなれば全額返済されないリスクが高まります。債務者に支払い日程と金額を明確にした計画を作成してもらい、確認してから分割払いの相談に応じましょう。一般的には支払い期間は長くても3年以内にした方が良いとされています。
任意交渉をする前の確認事項3つの内、いずれかが確認できなければ任意交渉をすべきではありません。このような場合は債権回収を確実にするためにも、交渉のプロである弁護士や債権回収会社へお願いした方が良いでしょう。
最後に
契約期日までに債務者が債権者に弁済することは当然のことですが、資金繰りが難しい場合などは期日までの弁済が難しくなることもあるかもしれません。そのような場合は、債権者と債務者が話し合って当事者間で問題を解決することで、わだかまりが残らず、また、債権回収に関する費用も抑えることができます。
当事者間の話し合いがうまくまとまらない場合は、債権回収会社や裁判所に依頼することができるでしょう。費用はかかりますが、問題を放置しておくよりは債権者・債務者両者にとって良い結果につながります。