キャリアアップ助成金とは、簡単にいえば非正規労働者の正社員化などの取り組みを行った会社に支給されるものです。7つのコースがあり、要件を満たせば金額の上乗せもできます。
本記事では、キャリアアップ助成金の内容や需給の流れについて簡単に説明しましょう。
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金とはどのような制度なのか、その目的を紹介します。
非正規労働者の人材育成が目的
キャリアアップ助成金は、会社の中で非正規労働者がキャリアアップを図るための制度です。一般的に助成金とは、国や地方公共団体が事業者に対し一定の条件をもとに支給するもので、原則として返済の必要がありません。
数ある助成金のひとつであるキャリアアップ助成金は厚生労働省が実施しており、有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者といった非正規労働者の人材育成が目的です。具体的には、非正規労働者のキャリアアップや正社員への転換、賃金規定の改定、健康診断制度の導入などを行った会社に一定額が支給されます。
非正規労働者がスキルを高められるだけでなく、会社側も優秀な人材を確保できる点がメリットです。
中小企業の方が受給額が多い
キャリアアップ助成金は会社の規模に関わらず受給できますが、中小企業の方が大企業よりも受給額が多いのが特徴です。例えば、非正規労働者を正社員に登用した場合、大企業では一人につき42万7500円が支給されるのに対し、中小企業では57万円と、10万円以上も上回ります。
キャリアアップ助成金の受給には雇用保険適用事業所の事業主であることなど条件があるほか、計画を作成して実施することが必要です。
「中小企業事業主」の範囲
受給額が増える「中小企業」には、次のように範囲が決められています。
主たる事業 | 資本金の額出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
「資本金の額・出資の総額」と「常時雇用する労働者の数」の要件のうち、どちらかひとつを満たしていれば中小企業に該当します。「常時雇用する労働者の数」に該当する労働者は、2か月以上雇用されている場合です。
キャリアアップ助成金のコースは7つ
キャリアアップ助成金のコースは、2022年5月現在7つのコースがあります。毎年4月に改定が行われ、コースの統合や追加、適用範囲の拡大などがされているため、随時確認することが必要です。
コースの比較表
2022年5月現在のコース内容は以下の表の通りです。
コース名 | 目的・概要 |
正社員化コース | 非正規労働者を正規雇用へ転換する |
障害者正社員化コース | 障害のある非正規労働者を正規雇用へ転換する |
賃金規定等改定コース | 非正規労働者等の賃金改定を行う |
賃金規定等共通化コース | 非正規労働者と正規雇用者の職務等に応じた賃金規定を共通化し、適用する |
諸手当制度等共通化コース | 非正規労働者と正規雇用者の諸手当制度や健康診断を共通化する |
選択的適用拡大導入時処遇改善コース | 非正規労働者の社会保険適用を拡大し、基本給を増額する |
短時間労働者労働時間延長コース」 | 短時間労働者の労働時間を延長し、社会保険を適用する |
2022年には新型コロナ感染拡大の影響を受け、派遣労働者の正社員化に取り組む派遣先への助成金対象を拡大しています。
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金」
全コース共通「事業主の要件」
すべてのコースには、次のような事業主に共通の要件があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主である
- 事業所ごとにキャリアアップの管理者を置いている
- 対象の労働者に対してキャリアアップ計画を作成している
- 管轄労働局庁の受給資格認定を受けている
- 対象労働者への賃金支払い状況を明らかする書類を整備している
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んでいる
雇用保険適用の事業所であるということが大きな前提です。さらに、キャリアアップ管理者を置き、計画の作成と実行を行う必要があります。
受給するためには、各コースの実施日までに計画を作成し、管轄の労働局長から受給資格の認定を受けなければなりません。また、計画の期間内にキャリアアップの取り組みを行うことが大切です。対象労働者につき、労働者名簿や賃金台帳、出勤簿といった法定の帳簿を整備していることも必要になります。
助成金が上乗せになる「生産性要件」
助成金には、労働の生産性を高める取り組みを行って成果を得た事業主に対し、助成金を上乗せする制度があります。労働関係の助成金全般に適用される制度です。労働人口の減少が見込まれるなかで経済成長を図ることを目的にしています。「生産性要件」と呼ばれ、助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、次のどちらかに該当しなければなりません。
- その3会計年度前に比べて6%以上伸びている
- その3会計年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びている
2の要件は、会社と取引する金融機関が、会社の事業に一定の評価をしている場合に適用されます。
キャリアアップ助成金を受給する流れ
キャリアアップ助成金を受給するまでの手続きは、正社員化コースとそれ以外に分かれます。ここでは、正社員化コースの手続きについて一連の流れを紹介しましょう。
1.キャリアアップ計画を作成
事業所ではキャリアアップ管理者を選任し、計画を作成します。非正規労働者のスキルアップに向けた取り組みを円滑に進めるため、今後の流れを具体的に記載する計画書です。計画には、次のような項目を盛り込みます。
- 計画全体の流れ
- 3年以上5年以内の期間
- 計画期間中に講じるコース
- 対象者
- 目標
- 目標を達成するための具体的な取り組み
計画を作成したら、正社員への登用を行う前日までに管轄の労働局に提出し、認定を受けてください。
2.就業規則等を改定
正社員への登用について規定がない場合、就業規則等に制度について記載するための改定を行います。規則等には、具体的な手続きや対象者の要件、実施する期間などを記載し、労働基準監督署に届けなければなりません。
3.正社員への転換や計画の取り組み
作成した計画書に沿って、正社員化への取り組みを行います。正社員に登用したあとは、雇用契約書や労働条件通知書を対象者に渡してください。契約書や通知書には、正社員登用後に適用される就業規則等に定めた労働条件や待遇を記載しなければなりません。
4.6か月の賃金支払い
助成金を支給申請できるのは、正社員登用後に6か月間賃金を支給したあとです。6か月の雇用ではなく6か月間の給与支払いである点に注意しましょう。登用後の賃金は、登用前より基本給の5%以上アップすることが要件です。
5.支給申請
助成金の申請は、正社員に登用後、6か月分の賃金支払いが完了した時点から提出できます。支給完了日の翌日から起算して、2か月以内が期限です。
キャリアアップ助成金を受給する際の注意点2つ
キャリアアップ助成金を申請する際には、いくつか注意したい点があります。
1.書類作成は慎重に行う
助成金の支給は、提出された書類に基づいて審査が行われます。不正受給を防止するために、一度提出された書類はあとから差し替えや訂正ができません。そのため、書類作成は慎重に行いましょう。
また、申請書類に不明点がある場合は、指定した期日までに書類の追加提出や補正が求められる場合もあります。
2.支給決定後に実地調査がある
支給決定のあと、事業所に実地調査が入る場合があります。帳簿等が適切に作成されているかなどを確認しますが、事業所の協力を得られない場合、助成金は支給されないため注意しましょう。
また、不正受給が見つかった場合は助成金を返還しなければなりません。さらに、受給日の翌日から返還までの期間について延滞金が課せられ、返還額の20%にあたる違約金も請求されます。
最後に
キャリアアップ助成金は、非正規労働者の正社員登用やキャリアを向上させることが目的です。特に中小企業への助成金が高く、優秀な人材を確保するために役立ちます。人手不足のため、現在の非正規労働者のスキルを高めて正社員に登用したいと考えている経営者の方は、利用してみるとよいでしょう。