個人事業主と類似するイメージの言葉として自営業者やフリーランスなどがありますが、具体的にはどのような違いがあるのか解説します。また、個人事業主のなり方やメリット・デメリット、納める税金の種類についても見ていきましょう。
個人事業主とは何かわかりやすく解説
個人事業主とは、個人で事業を行う人のことです。税務署に「開業届」を提出して受理されれば、その日から個人事業主として働くことができます。
なお、ここでいう「事業」とは、繰り返し、かつ継続的に独立して行う仕事のことです。例えば、海外で購入した雑貨をネットで販売したとしても、「事業」とはいえません。しかし、会社等の組織での仕事とは無関係に、雑貨販売を何度も繰り返して行っている場合は「事業」といえるでしょう。
フリーランスとの違いは?
フリーランスも、会社等の組織とは独立して事業を行う人のことを指す言葉です。しかし、個人事業主とは異なり開業届を出している必要はなく、単発的に仕事を請け負うニュアンスがあります。
自営業者との違いは?
一方、自営業者とは、無職ではなく会社員や公務員でもない人全体を指す言葉です。つまり、フリーランスや個人事業主も自営業者と考えられますが、自営業者の中で法人を設立して社長として働いている方は個人事業主ではありません。
法人との違いは?
法人とは、いわゆる会社のことです。個人事業主と同様、一人でも法人を設立できますが、会社の決まりを定める「定款」や税務署への「登記」が必要で、設立時に数十万円の費用がかかります。一方、個人事業主も最初は開業届を提出しますが、提出する際に費用は一切かかりません。
また、法人は辞める際の手続きも個人事業主より複雑です。個人事業主は税務署に廃業届を提出するだけで辞めることができますが、法人は解散の登記が必要で、なおかつ資金の清算も行わなくてはいけません。
ただし、手間はかかっても法人化するメリットがあります。個人事業主は事業に失敗した場合は個人にすべての責任がかかってきますが、法人では責任は法人にかかるため、法人に属する個人の財産は守りやすくなるでしょう。
税金面でも個人事業主と法人は異なります。個人事業主は利益に対して所得税を納めますが、所得税の最高税率は45%と高く、高額な利益が見込まれるときには税額も高額になるでしょう。
一方、法人は所得税ではなく法人税を支払いますが、最高税率は23.2%のため、個人事業主よりは税額を抑えやすくなります。ただし、利益が出ないときでも一定額の税金が発生するので、利益が少ないときには個人事業主のほうが税額は低額になることも少なくありません。
個人事業主が納める5つの税金
事業で利益が得られるようになると、税金の種類も増えます。個人事業主が納める5つの税金を紹介しますので、納税漏れがないようにしていきましょう。なお、税金の中には利益がないときも納めなくてはいけないものもあるので注意してください。
1.個人事業税
個人事業税は、個人事業主が納める地方税のひとつです。税率は3~5%で、業種によって異なります。
なお、個人事業税として支払った金額は経費として計上することが可能です。個人事業税以外にも、消費税や固定資産税なども経費計上できます。
個人事業税を納める条件
個人事業税は、すべての個人事業主が納める必要はありません。以下などの全70の特定業種に該当し、なおかつ事業所得が290万円を超えている場合のみ、業種ごとに定められた税率で個人事業税を支払います。
個人事業税の税率 | 業種 |
5% | 物品販売業、料理店業、飲食店業、倉庫業、金銭貸付業、製造業、印刷業、医業、歯科医業、弁護士業、公認会計士業、行政書士業、クリーニング業など |
4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
3% | あんま、はり、マッサージ、指圧など |
なお、事業を開始して1年未満の場合は、事業所得が290万円×事業月数÷12を超えるときに個人事業税を納税しなくてはなりません。例えば事業を開始して半年ならば、事業所得が290万円×6÷12=145万円を超える場合のみ、個人事業税を支払います。
また、青色申告をしている場合には、3年間の繰越控除が可能なため、事業所得が290万円を超えていても個人事業税を納付する必要がない場合もあるでしょう。今年は400万円の事業所得があったものの前年に150万円の赤字があったとするならば、繰越控除後の事業所得は250万円のため、個人事業税の納付条件を満たしません。
2.所得税
年間所得が48万円を超えている場合には、所得税の納付が必要です。なお、年間所得は収入から必要経費等を除いた金額のため、収入が48万円を超えていても所得税の納付義務があるとは限りません。また、青色申告を行っている場合には、特別控除として条件により所得金額から10万円、55万円、65万円を控除できます。
3.住民税
住民税には所得割と均等割があり、所得割は原則として課税所得の10%です。一方、均等割は居住する自治体によって異なりますが、おおよそ4,000~5,000円になります。いずれも6月ごろに自治体から通知書が送付されるので、納付期間内に納めましょう。
4.消費税
前々年度の課税売上高、あるいは前年の1月~6月の課税売上高が1,000万円を超えている場合には、消費税の納付も必要になります。この条件を満たさない場合もしくは開業1年目の場合には、売上高が高くても消費税の納付は不要です。
5.社会保険料
社会保険は厳密には税金ではありませんが、すべての人が加入する義務と保険料を納付する義務があります。個人事業主が加入できる社会保険は、国民年金保険と国民健康保険の2つです。40歳以上になると自動的に介護保険にも加入することになります。
なお、個人事業主が以下の業種に該当し、なおかつ常時働く従業員が5人以上の場合は、厚生年金保険と社会健康保険にも加入しなくてはなりません。また、以下の業種に該当しない場合や従業員が5人未満の場合でも、従業員の半数以上の同意があるときには厚生年金保険や社会健康保険に加入することができます。
製造業、土木建築業、物品販売業、運送業、金融保険業など |
また、従業員が1人でもいる場合には、雇用保険や労災保険にも加入できるようになります。雇用保険料は事業主と従業員が折半しますが、労災保険料は事業主の全額負担です。
個人事業主のなり方
個人事業主になるためには、管轄の税務署に開業届を提出しなくてはなりません。また、従業員を雇用し、社会保険に加入する場合には、各保険の管轄部署にも申請書類を提出します。
なお、開業届の提出期限は開業から1か月以内です。提出しなくても罰則はありませんが、個人事業主が開業届を提出することは所得税法に定められていることなので、忘れずに提出するようにしましょう。
青色申告の手続き
確定申告には白色申告と青色申告の2つの種類があります。個人事業主だから青色申告にしなくてはいけないといった決まりはないので、好みのほうを選びましょう。
青色申告を選択すると最大65万円の特別控除が適用されたり、赤字を最大3年間繰越控除できたりといった税制上のメリットがあります。しかし、その代わりに帳簿を複式簿記でつけなくてはいけないため、手間に感じる方もいるかもしれません。
また、白色申告には特別な手続きがありませんが、青色申告を選択する場合には税務署への「青色申告承認申請書」の提出が必須です。開業から2か月以内に提出しなくてはいけないため、できれば開業届と同時に提出しておきましょう。
個人事業主のメリットとデメリット
個人事業主として働くことには、メリットもあればデメリットもあります。個人事業主として働くのか、それとも開業届を提出せずにフリーランスとして働くのか、また、法人を設立するのか悩んでいる方は、まずはメリットとデメリットを理解した上で働き方を選んでいきましょう。
【メリット1】事業を始めやすい
個人事業主として働くことのメリットのひとつに、事業を始めやすいという点が挙げられます。開業届を提出するだけで誰でも個人事業主になれるので、複雑な手続きは不要です。また、開業届や青色申告承認申請書を提出する際には手数料は発生しないため、費用をかけずに独立できる点も個人事業主のメリットといえるでしょう。
一方、法人として事業を始める際には、定款を作成し、法人登記が必要です。場合によっては司法書士等の専門家に依頼する必要があるでしょう。登記や専門家への依頼には費用がかかるため、個人事業主のようにお金をかけずに事業を始めることはできません。
事業が軌道に乗ってきた場合は節税のためにも法人化することができますが、まずは手間と費用をかけずに事業を開始できる個人事業主になり、思うような成果が得られるのか様子を見てみることもできるでしょう。
【メリット2】税務処理がシンプル
個人事業主の税務処理と比べると、法人の税務処理は複雑です。間違いなく納税するためにも、税理士などの専門家への依頼が必要になるケースも少なくありません。
また、課税所得額が1,949,000円までのときは所得税率は5%と低く、法人として税金を納めるよりも節税できる可能性があります。所得税の最高税率は45%と法人税の最高税率よりも高くなりますが、所得が少ない間は税率が低いため、まだどの程度利益を得られるか分からないときは個人事業主として事業を行うほうが良いかもしれません。
【デメリット1】収入が不安定
会社員や公務員のように組織に属して給料を受け取る場合と比べると、個人事業主は収入が不安定です。賞与のように定期的な収入増もないため、すべては自分個人の頑張りにかかっています。
また、有給休暇もないので、仕事を1日休めばその分、収入が減ってしまうという点も、個人事業主として働くデメリットといえるでしょう。収入を得るためには身体が資本となりますので、組織に属している人以上に健康管理に注意する必要が生じます。
【デメリット2】社会的信用を得にくい
会社員や公務員と比べると、個人事業主は社会的信用を得にくいというデメリットがあります。そのため、ローン審査やクレジットカードの審査が通りにくかったり、賃貸物件の審査に通らず住居やオフィスを借りることが難しくなったりすることがあります。保証会社を利用することで審査に通りやすくなることがありますが、保証会社に保証料を払う必要があるため、組織に属している人よりは経済的に不利な条件下に置かれやすいといえるでしょう。
現在、会社員や公務員として働き、いずれ個人事業主として独立しようと考えている場合は、独立する前にオフィスを借りておくことも検討できます。勢いで個人事業主として独立するのではなく、オフィスはどうするのか、初期費用はどうするのか等を考えてから、計画的に独立するようにしましょう。
最後に
個人事業主とは開業届を税務署に提出し、個人で事業を行う人のことです。従業員を雇用することも可能なので、手広く仕事を行うこともできます。税務処理がシンプルといったメリットはありますが、社会的信用を得にくいなどのデメリットもあるので、計画的に個人事業主として独立するようにしましょう。